広電の事例が宇都宮のライトラインに影響を及ぼす可能性も
広島駅の件は、2023年8月に開業したばかりの栃木県宇都宮市の路面電車(ライトライン)にも影響を及ぼす可能性がある。現在、ライトラインは宇都宮駅東口を起点に同県芳賀町の芳賀・高根沢工業団地までの約14.6kmを結んでいる。

ライトラインは開業前の需要予測を大きく上回って路面電車に新風を吹き込んだが、2023年に開業した区間は宇都宮市が推進するLRT整備の第1ステップに過ぎない。
ライトラインの開業で駅東側は再開発が進められてにぎわいが創出されているが、旧来から宇都宮市の繁華街は宇都宮駅から約1.8km西側にある東武宇都宮駅の周辺だった。
それまで路面電車という公共交通機関に馴染みがない宇都宮市民にとって、駅東側から整備をしたのは路面電車への周知・理解といった効用もあった。そうした地ならしをしつつ、ライトラインは駅西側への延伸を3段階に分けて整備する方針を打ち出している。そのうち、第1段階の区間は、2030年を目標に開業させることが予定されている。
第1段階は現在の起点になっている宇都宮駅東口からJR宇都宮駅をまたいで駅西側へと出て、そこから道路を直進して東武宇都宮駅や栃木県庁などを通って宇都宮地方裁判所前までの区間となっている。

JR宇都宮駅は東北本線(宇都宮線)や日光線・烏山線などが地上を走り、東北新幹線は高架線を走っている。ライトラインが駅西側へと出るには、在来線と新幹線の間、つまり歩行者と同じ高さに線路を敷設して駅構内のコンコース(もしくは、それに近い場所)と並走することになる。
ライトラインの整備計画を見ると、宇都宮駅東口と宇都宮駅西口の間に停留所を設ける予定は示されていない。しかし、せっかく駅構内を突き抜けるようにライトラインの線路を敷設するのだから、JR宇都宮駅構内にも乗降場を新設して新幹線や在来線と乗り継ぎの便を向上させることを検討してもいいはずだ。
広島という地方都市の挑戦は、全国各地の公共交通、特にこれまで都市交通の脇役としか見られていなかった路面電車を大きく変える試金石になる。
【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『鉄道がつなぐ昭和100年史』(ビジネス社)、『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。