乗り継ぎの徒歩移動を少しでも短縮させる効果

 広電が抱えていた利用者創出の課題は、広島市やJR西日本にとっても共通しており、三者の問題意識が一致したことで広島駅を改築して広電の乗降場を広島駅2階のコンコースへ移設することを決定する。

 広電の乗り場は、これまで広島駅南口を出た目の前にあり、決して不便な場所にあったわけではない。それでも駅構内へと乗り場を移設するメリットはある。なぜなら、わずかな距離であっても徒歩移動が生じることによって利用者を取りこぼしていたからだ。

 特に、来街者は乗降場が分かりづらいとタクシーを利用してしまう傾向が強い。迷う要素を少しでも取り除くことにより、ストレスを感じさせない移動が実現し、それが利用者増へとつながる。

 また、駅前広場に乗り場があるといっても、駅をいったん出なければならない。そのため、雨天時は傘をさすことになる。駅構内に乗り場を移設すれば濡れずに電車に乗ることができる。そうした心理的なハードルを下げることによって、利用者の拡大を目指す計画だ。

 広島駅の改修は、それまで地上にあった広電の乗り場を2階に上げるという高架化を伴う大掛かりな工事となった。2020年10月から工事が進められながらも長らく完成していなかったが、このほどようやく工事が完了し、今年の8月3日から供用を開始する。

広電乗り入れのため広島駅前で行われていた高架線の工事(2024年3月、筆者撮影)

 これに伴って地上部にあった広電の乗り場が移設され、広島駅への高架乗り入れによって、新たに駅前大橋を通るルートに変更される。そのため、これまで広島駅へとアクセスする広島駅―猿猴橋町―的場町の区間は重複してしまうので廃止される。つまり、高架乗り入れと地上部の乗り場廃止はセットであり、これまでの動線を大きく変えることになる。

広島電鉄の路面電車が乗り入れる新線「駅前大橋ルート」(写真:日刊工業新聞/共同通信社)
広島電鉄の路面電車が乗り入れる新線「駅前大橋ルート」。レールや架線の取り付けが終わり、近く試運転開始予定(写真:日刊工業新聞/共同通信社)

 動線が変わると市街地のにぎわいにも変化が生まれ、それが悪い方向に動くとにぎわいを減退させる要因にもなりかねない。そうした懸念もあり、廃止区間に代わって市内中心部を循環する系統を新設した。

 広島市・JR西日本・広電の三者による大胆な線路の付け替えは、これまで地上をのんびり走るという路面電車のイメージを刷新する取り組みになるだろう。