蔦重はいかにして日本橋に進出するのか?

 日本橋に店を出してみてはどうか――。絶好調の蔦重のもとに、あちこちからそう持ちかけられる様子が今回の放送で描写された。

 交通の便がよく商人たちが行き交う日本橋は、当時、多くの地本問屋や書肆(しょし:本屋のこと)が集まっていた。いわば出版文化の中心地である。

『べらぼう』では、風間俊介が演じる鶴屋喜右衛門の「仙鶴堂(せんかくどう)」があるのも日本橋通油町(とおりあぶらちょう)だし、西村まさ彦演じる西村屋与八の「永寿堂(えいじゅどう)」も日本橋馬喰町(ばくろちょう)に位置している。

 新吉原大門前で耕書堂を営んでいた蔦重も、事業拡大に向けて、日本橋通油町への進出を計画したようだ。日本橋の通油町で地本問屋を営む丸屋小兵衛(まるや こへえ)から店舗と株(営業権)を手に入れると、新たな本拠としている。

 そんな史実をもとに、ドラマでは、蔦重がいかにして日本橋へ出店を果たすのかが、今後の見どころとなりそうだ。というのも、蔦重は経営難で店を畳むことになった丸屋から、店を買おうとするが、橋本愛演じる丸屋の一人娘「てい」が、買い手を探してくれるという鶴屋に対して、こんな注文を出しているからだ。

「吉原の蔦屋耕書堂だけは、一万両積まれようともお避けいただきたく」

 かなり毛嫌いされている蔦重。吉原の親父たちは「蔦重の手がけた往来物が丸屋の息の根を止めた」「ていの亭主が吉原の遊女に入れあげて店が傾くきっかけになった」などの噂を蔦重に伝えるが、果たして真相はいかに。

 しかもこの「てい」が、蔦重の妻になるというのだから、今後の展開がますます楽しみだ。

 次回は「げにつれなきは日本橋」。ていから店舗売却を拒まれる蔦重は、平秩東作(へづつとうさく)や北尾重政に打開策を尋ねる。

【参考文献】
『蔦屋重三郎』(鈴木俊幸著、平凡社新書)
『蔦屋重三郎 時代を変えた江戸の本屋』(鈴木俊幸監修、平凡社)
『探訪・蔦屋重三郎 天明文化をリードした出版人』(倉本初夫著、れんが書房新社)
「蔦重が育てた「文人墨客」たち」(小沢詠美子監修、小林明著、『歴史人』ABCアーク 2023年12月号)
「蔦屋重三郎と35人の文化人 喜多川歌麿」(山本ゆかり監修『歴史人』ABCアーク 2025年2月号)
『江戸の色町 遊女と吉原の歴史 江戸文化から見た吉原と遊女の生活』(安藤優一郎著、カンゼン)
『田沼意次 その虚実』(後藤一朗著、清水書院)
『田沼意次 御不審を蒙ること、身に覚えなし』(藤田覚著、ミネルヴァ書房)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。