なぜネコでの発症例が増えているのか?
「ネコの発生例が圧倒的に多い。自分自身は経験していないがイヌでも発生している。呉市でも確認したという獣医師の声もよく聞く。SFTSは今や身近で、厄介な病気。呉市でも人の感染例も聞くことがあり、死亡例も出ている。人と動物に共通する人獣共通感染症で、飼い主、獣医師、動物病院のスタッフに関わる」(玉原院長)。
呉市は山野の自然が豊かで、イノシシやシカが日常的に出没する地域。古くからの家屋が多く、室内と野外を行き来する飼われ方をしている猫も多い。そんなネコの体にSFTSウイルスを保有するマダニが付着し、マダニが吸血することでウイルスがネコに感染していると考えられる。
屋内と野外を行き来するネコのほか、普段野外を散歩するイヌで、SFTSに感染するケースが増えている。
その感染のルートは複雑で分からないところも多い。
玉原院長がSFTSの診断に至ったネコのうち1頭は室内だけで飼われていた。そのため、どこから感染したかは最終的には定かではないものの、そのネコが飼われていた家では一緒にイヌを飼っており、散歩で野外に出たイヌがマダニを運んできた可能性が考えられた。感染したネコは高齢でもあり、残念ながら亡くなっている。
国内において、ネコでは過去1000頭ほどの感染事例があると考えられている。ただ、ウイルスの感染があっても、発症していないケースも考えられるため、全容を把握しづらい。この感染症の怖いところは、マダニやペット、野生動物に接触した人にも感染する可能性があることだ。
玉原院長は、「ネコの平熱は38度だが、体温が39.5度を超え、元気や食欲がなく、普段から野外に出ているようなネコはSFTSを疑っている。血液検査で血小板や白血球が減っていればかなり怪しい」と語る。
また「ネコの場合、黄疸が出ることが多く、尿や粘膜が黄色いとSFTSの可能性が疑われる。飼い主は最初元気がない、食欲がないですと連れてくるが、最初の症状からではSFTSかどうかは分からないだろう」と説明する。
元気や食欲をなくす病気はほかにもあり、それらとの区別をするのが重要だ。
玉原院長は、2019年に医院を開業する前は、神奈川県の動物病院で院長を務めていた。その当時からSFTSの話題は出ていたが、当地では診ることがなく、呉市で初めて実際のケースを診ることになった。西日本に広がる病気であることが理解できたという。