20の政令市と62の中核市という「拠点」
地方自治には二つの原則がある。すなわち、住民に身近な行政主体に優先的に事務を配分すべきという「近接性の原則」、および基礎自治体ができないことのみを広域行政や国が補完する「補完性の原則」である。今一度、この原則に立ち返り、「多極集中」を導きの糸として、国や都道府県から政令市や中核市への分権改革、すなわち都市分権を断行し、人口減少時代に備えるべきであろう。
政令市を特別市として都道府県から独立させ、警察や義務教育なども所管しながら、地域の特性に即した街づくりを可能にすべきではないだろうか。また、人口20万人以上を要件とする中核市には、保健所や児童相談所の設置に加えて、行政事務や都市計画の権限を委譲すべきであろう。最終的には、現在の政令市を特別市へ、中核市を政令市へ、そして人口5万~10万程度の都市をそれぞれ中核市へ繰り上げ、基礎自治体を強化する分権改革も一案である。
もちろん、分権による自治体の裁量権の拡大は、自治体における「失敗する自由」と裏腹の関係にある。行政運営に失敗すれば自治体の財政破綻も起こりうるし、都市間の格差も生じうるであろう。
それゆえ、国や広域自治体の役割も消滅することはない。教育や医療については国の責任において一律の基準を設けるべきであるし、都市間の財政調整制度も必要であろう。また、幹線道路や上下水道などは今後の広域連携が求められる領域であり、広域自治体の仕事もなくなることはないであろう。
その上で、「多極集中」の下、政令市や中核市といった拠点自治体に権限を委譲し、日本の各地に個性と刺激にあふれた、行財政的にも自立した街が点在する、そんな国土デザインが必要ではないだろうか。
国のかたちを鋳直す実感を
明治時代の帝国議会の様子を見ると、全国から集まった草莽(そうもう)の壮士たちが、いまだ形の定まらない日本という国を自分たちの手で練り上げることができるという実感を抱き、独特の活気に満ちている。
しかし、次第に確立されていった中央集権国家の制度は堅固で、現在、霞が関に林立する官庁街の様子はまるで動かざること岩のごとし、統治制度の不動の頑強さを示しているようでもある。政治も有権者も、それを所与のものとして自明視し、あえてその変革を問わない。
とはいえ、行政制度はその時代の国民の必要に応じて絶えざる鋳直しに晒されるべきものである。人口減少という未曾有の変化を迎える今、あらためて住民本位の統治機構の改革に取り組むエネルギーとスタミナが求められているはずである。
参考文献
広井良典『人口減少社会のデザイン』東洋経済新報社、2019年
佐々木信夫『元気な日本を創る構造改革』PHPエディターズ・グループ、2019年
河合雅司『未来の年表 業界大変化-瀬戸際の日本で起きること』講談社現代新書、2022年
中里透「中枢・中核都市に集積進めよ」日本経済新聞、2025年1月22日