アフリカに落ちないチョコレートの利益

 そのカカオ豆がチョコレートになると製造国は、ドイツ、ベルギー、イタリアなどが多くなる。

 原材料のカカオは生産しても、最終生産物のチョコレートの製造になるとヨーロッパにお株が奪われてしまうのだ。結果として、チョコレートの利益は、アフリカに落ちず、ヨーロッパに行ってしまう。

働けど
働けど猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざり
ぢつと手を見る

 という石川啄木の短歌が思い出される。

 コートジボワールのカカオ豆農家と石川啄木の心情はつながっている。

 コートジボワールのカカオ豆はヨーロッパのチョコレート製造企業から買いたたかれてしまい、農家は貧しいままだ。児童労働の存在も指摘されてきた。

 アビジャンの空港でコートジボワール生産のチョコレートを購入しようとしても、残念であるがほとんど見つけることができなかった。

 このような事態を打開するために、コートジボワール政府は、国内でのチョコレート製造を目標に掲げている。カカオ豆が買いたたかれないための規制や国内製造工場の増加に注力してきている。

 国内で製造するには、工場という箱物に加えて、冷却や包装、品質管理の技術やそのための人材育成が欠かせない。前提として電気や物流のための道路といったインフラ整備も必要である。

 今回コートジボワールを訪問して改めて魅力に感じるのは、フランス文化とアフリカ文化が融合した魅力、大西洋の海岸と緑の大地のコントラストの魅力である。

 これら肯定的なイメージを、原産国製造の高品質チョコレートといった形で合わせてブランド化ができないであろうかと思う。

「コートジボワールというとちょっと高級で本格的なチョコレートと思いだす」というブランドイメージができるとしめたものだ。

 フランス風カフェで現地産の本格的なチョコレートを楽しむ。そんな時代になるとコートジボワールは大いに発展するに違いない。

山中 俊之(やまなか・としゆき)
著述家・起業家
 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。2010年、グローバル理解やグローバル人材開発支援、世界とつながる地域創生支援を目的としたグローバルダイナミクスを設立して代表取締役就任。2015年からは、神戸情報大学院大学教授を兼任、アフリカ等からの留学生に対して社会イノベーションについて教鞭をとる。研究室の卒業生の中からは欧州有力ファンドから資金調達に成功した起業家も生まれる。世界101カ国を訪問(2025年4月現在)。先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。

著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)、『世界96カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界の民族超入門』(ダイヤモンド社)など。