フェルスタッペンは父とオランダ人の夢を乗せて走っている

 マックス・フェルスタッペンという天才ドライバーの父親が、ヨス・フェルスタッペンという元F1レーサーであることはよく知られている。マックスは父の英才教育を受けて育ったわけだ。

 小倉さんの視線は、このお父さんにまで注がれていた。ヨス・フェルスタッペンはミハエル・シューマッハのチームメイトとして、F1デビューした。ミハエル・シューマッハはその強さから「皇帝」と称されたドライバーで、当時のチーム(ベネトン)は、いわばミハエル・シューマッハのためのチームだった。

 ゆえにシューマッハのチームメイトになったドライバーは、どんどん没落していくと言われ、ヨスも例外なく、その一人となった。ヨス・フェルスタッペンは、決して成功したドライバーではなかったということだ。

マックス・フェルスタッペンの父、ヨス・フェルスタッペン(2024年2月撮影、写真:Hasan Bratic/DPA/共同通信イメージズ)

 しかし、ヨスはここで終わらなかった。息子をビシバシと育て上げ、時を経て、その息子が、かつてのシューマッハのような役割を担うに至ったのである。ナンバー2(セカンドドライバー)だった雪辱を、息子で晴らしたというべきか。

 さらに、ヨス・フェルスタッペンのほかにもオランダ人F1ドライバーは何人かいたが、なかなか大成できなかったのだと、小倉さんは教えてくれた。

 つまり、父の、さらにはオランダ人の夢をのせて、フェルスタッペンの今の栄光はある──という因縁を聞いたとき、私はフェルスタッペンの強靭さを養った長い歴史に思いをはせるとともに、F1を見る目が少し変わった気がした。目の前で起きているレースは面白い。だが、背後にあるものを知ると、もっと面白いと。

 もちろんF1に限ったことではないが、人には歴史がある。成功の裏には、たくさんの汗と涙がある。諦めない限り物語は続く。だから、日本人ドライバーが表彰台の中央に立つという日本人の夢もきっといつかかなうのだと、小倉さんは伝えてくれていたような気がする。