難病は医療、介護、福祉のトリプルコンボ

 介護と障害者福祉の課題の一つに、二重取りを許容しやすい構図がある。

 佐藤さんによれば、難病や末期がんなどの医療依存度の高い人を収容する施設は、「医療保険、介護保険、障害福祉サービスを状況に応じて組み合わせられるトリプルコンボになるケースがある」という。

 例えば、一般の高齢者を受け入れる住宅の場合、受けられる公的助成は主に介護保険と医療保険に限られる。

 それに対して、介護保険法施行令2条で定められた「特定16疾患(がんや関節リウマチ、パーキンソン病など)」に当てはまる病気の人を対象とする場合、40~65歳という比較的若い年齢層であっても介護保険を使える仕組みがある。

 これら特定16疾患であっても、65歳以上であれば、自動的に介護保険を利用することになるが、40歳~65歳だと、障害者総合支援法に基づく障害者福祉サービスと、介護保険の双方を使える可能性が出てくるのだという。

 病気に対応するために医療保険も使われるため、事業者にとっては40~65歳の難病などの患者は三重で収益を得やすい存在になる。

 これに関連して、厚生労働省の通知によれば、介護保険を利用できる場合には、障害者福祉サービスよりも介護保険を優先して利用することが求められている。そのためトリプルコンボは基本的に認められない。

 ところが、介護保険だけでは不足するなどの理由があれば、現実的に障害者福祉サービスとの重複利用が許容される場合もある。ここにつけ込む余地がある。

 佐藤さんの概算によると、1人当たりの売上高は、医療保険と介護保険の併用だけでは、あらゆる加算を最大限に付けても1人当たり年間1000万円(概算)にしかならない。

 それに対して、難病などの利用者で医療保険、介護保険、障害福祉サービスを組み合わせ、しかも加算を最大限取ると、1人当たり年間1500万円(概算)になる可能性がある。

「この最大限の加算」に関連して、医療にもつけ込まれやすい部分がある。サンウェルズの不正で注目されたのは、この医療制度のすきだった。(中編に続く)

◎中編:「別表7」のうまみを最大限に生かしたサンウェルズの事業モデル、パーキンソン病を活用した不正請求の仕組み

【参考文献】
精神訪問看護 不正が横行 県内外で過剰請求疑い 国、適正化乗り出す
訪問看護、要件見直しへ 精神科の不正請求で厚労相
訪問看護の最大手、過剰請求か 精神科「あやめ」が全社的に
「難病の客からは1人90万円を」過剰な訪問看護、背後にいた人物とは 福祉ビジネス、違法な助言をするコンサルも
ホスピス型住宅、看護で不正 報酬目的、過剰に訪問
難病向け老人ホームで不正か 訪問看護、過剰請求指摘も
「医療費が食い物にされている」訪問看護師たちのMeToo運動 難病や末期向け老人ホーム、精神科で「不正、過剰な報酬請求」
訪問看護「回数一律は認めず」 厚労省、運営会社指示も禁止
【速報】訪問看護、回数一律は不可と厚労省
障害者自立支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について

星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師
 東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
 ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
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