基軸通貨の「3つの条件」

土田:私は一橋大学の経済学部を卒業しました。かつて一橋大学にはスター教授が数多くいて、経済学辞典を作ったことがあります。まずはこうした辞典を数冊読み直して、基軸通貨に関して共通する条件を探すところから始めました。

 1点目の条件は、「その通貨を発行する国が圧倒的な国力を持つこと」。国際政治における覇権国ということになります。

 2点目は「その通貨を発行する国が高度な金融市場を有していること」。金融取引が行われている必要があるということです。

 そして、金融取引は特定の通貨に寄せたほうがよく回るので、3点目に「その国の通貨の交換量が突出して多いこと」が条件になります。

──こうした基軸通貨の条件や定義は公式に定められているものではないのですか?

土田:国際政治の分野などでは、やや異なる定義が見られることもあります。私の場合は、経済学をベースに条件を設定しました。

──基軸通貨は、国際会議のような場所で「この通貨がこれからの基軸通貨」と誰かが決めるものなのでしょうか?

土田:歴史が選ぶという言い方が正しいと思います。

 本書では、最初の世界の基軸通貨として「ペソ」を挙げました。それ以前に別の基軸通貨もあったという意見もあるかもしれませんが、初めて洋の東西を結んだという意味で、スペイン帝国が最初の世界的な帝国だったとすると、最初の国際的な規模の決済通貨としてペソを挙げることができます。

 やがてスペインが没落して、代わって台頭したイギリスの通貨「ポンド」は、次に歴史が選んだ基軸通貨でした。20世紀の前半までポンドの時代が続きましたが、2度の世界大戦を経て、イギリスの国力が衰退し、自然とアメリカにバトンタッチしたのです。

 戦後の米ドルを中心とする国際通貨体制「ブレトンウッズ体制」は、米ニューハンプシャー州のブレトンウッズという町で開催された連合国通貨金融会議によって決められたものです。基軸通貨としての米ドルは確かに歴史に選ばれたものですが、同時に、初めて国際合意のもとに決まった基軸通貨だと考えられます。