菅谷城 撮影/西股 総生(以下同)
(歴史ライター:西股 総生)
はじめて城に興味を持った人のために城の面白さや、城歩きの楽しさがわかる書籍『1からわかる日本の城』の著者である西股総生さん。JBpressでは名城の歩き方や知られざる城の魅力はもちろん、城の撮影方法や、江戸城を中心とした幕藩体制の基本原理など、歴史にまつわる興味深い話を公開しています。今回は中望遠レンズ1本で城を魅力的に撮る方法を伝授します。
単焦点なりのメリットは「高画質」
前回(「標準レンズ1本で「小机城」を撮ってみた、最大の見どころである巨大な空堀の立体感をうまく出す方法」)の記事では、標準レンズ1本で小机城を撮ることを試みてみた。そこで、標準レンズ1本で土の城が撮れるのなら、中望遠レンズ1本でチャレンジしてみよう、というのが今回の記事である。被写体として選んだ菅谷城(埼玉県嵐山町)については、2024年7月12日掲載の記事「続・城址碑や説明板をかっこよく撮るなら…構図、アングル、ライティングを工夫して「城としての空間」を写しとる」を参照されたい。
今回使用したのは、AFニッコール85mm f1.8というオーソドックスなレンズだ。このクラスのレンズは中望遠としては比較的おとなしい描写をするので、風景スナップなどに好んで使う人も多い。
菅谷城手前にある歩道橋の上から土塁と空堀を撮る
28°30′の画角をもつ85mmという焦点距離は、多くの人が常用するズームレンズに含まれている。それなら、広角から中望遠域までを1本でカバーするズームレンズの方が、機動力があって便利そうに思えるのだが、単焦点の中望遠レンズには単焦点なりのメリットがある。それは何かというと、ズバリ「高画質」だ。
主郭の空堀。85mmでは遠近感が軽く圧縮されるため同じ堀幅で奥まで続く感じに写る
ズームと違って単焦点レンズは、その焦点距離に最適な設計にできるし、レンズ構成や鏡筒の構造もシンプルだ。結果として内面反射を極力抑えることができるから、ヌケのよい画質と美しいボケ味が得られるし、逆光にも強い。
常用ズームの望遠側はf4とかf6.3になるのが普通だが、単焦点ならf1.8クラスの大口径が手頃な値段で手に入る。中望遠ならではのボケを生かした作画をしたいなら、圧倒的に単焦点が有利。城の写真では被写界深度をえるために絞り込むのが普通だが、あえて絞りを開けるという冒険を試みるのも面白い。
主郭の虎口。絞りを開き気味にして(f2.8)浅い被写界深度を生かしてみた
また、意外に見落としがちだが、専用のフードを使える、という点でも単焦点レンズは有利だ。ズームの場合、どうしても広角側の画角に合わせてフードを設計せざるをえないから、望遠側にしたときはフードの長さが不足する。光線状態による画質の低下を防ぎたかったら、そのつど逆入光を防ぐ「ハレ切り」が必要になるが、単焦点なら専用のフードが手に入るから、逆光時には余計に有利だ。
逆光気味のアングルでも問題なく撮れた。ズームだったらゴーストが生じていたかも
そんなメリットを持つ85mmで、どう土の城を切り取るか。まず、遠近感が軽く圧縮される、という中望遠レンズはの特性を生かすなら、土塁や空堀の「立ち上がり感」みたいなものを表現してみたい。
土塁や空堀を撮るなら広角レンズを使うのが有利に思えるが、広角レンズは遠近感が強調される分、アングルをうまく工夫しないと、かえって画面が平面的にのぺーっとしてしまう。そこへ行くと中望遠は遠近感が圧縮気味になるから、アングルをうまく見つければ、キリッと立ち上がった感じが出せる。
主郭の土塁を内側から撮る。遠近感が圧縮される分、土塁の立ち上が感が表現しやすい
空堀ごしに主郭土塁を撮る。人工的な急斜面であることがはっきり表現できる
もちろん、浅い被写界深度とボケの効果を生かすのは、このクラスのレンズを使う最大の醍醐味だ。この効果を生かすには、距離の異なる複数の被写体で画面を構成するなり、あえて奥行きのある画面構成を選ぶなり、といった工夫がほしい。要するに「前ボケ」「後ボケ」をうまく使うわけだ。
絞りを開けて植栽ごしに石碑と説明板を撮ってみた(f2)。ズームではこうは撮れない
とはいえ、曲輪の広がりや空堀の奥行き感みたいな要素を表現したい場面では、中望遠は明らかに不利である。こうした場面では、遠近感の圧縮効果やボケを利用して、広さや奥行きが感じられるような構図を工夫してみよう。
主郭の空堀と土塁。奥行きのある画面構成では被写界深度がほしいのでf16まで絞る
筆者の感想として、「中望遠1本で土の城」は意外に撮れるものである。何より、撮っていて楽しい。コツは、説明的な構図にしないこと。自分の持っているレンズの画角で切り取ったら面白い絵になる、思える被写体やアングルを見つけるとよい。
それと、絞りの効果をはっきり意識すること。被写界深度を浅くしたいのか、中間絞りでレンズの画質を発揮させたいのか、深度を深くとりたいのか。効果をはっきり意識して、絞りを開けるか絞り込むか決めるとよいだろう。
木立の中の土塁を遠目から切り取ってみる。広角レンズでは出てこない発想の構図だ
主郭の土塁に射す木漏れ日が縞状の模様を作っていた








