道理で、トランプ大統領は第一次トランプ政権と同様に第二次政権においてもサウジアラビアを最初の外遊先に選び、加えて、地域における存在感を高めているカタールとUAEを訪問したわけです。伝統的に米国との関係で重要な役割を担ってきたエジプトやヨルダンといった国々は米国に投資を行えるような余力はなく、トランプ大統領から見ても訪問に値する国々とは考えられなかったのは至極当然です。

 やはり、この背景として、トランプ大統領の取引を旨とする「トランザクショナル」なビジネススピリットは、湾岸3カ国のアラブの王族たちと通じ合うところが多いことを指摘しておくべきでしょう。おまけに、トランプ大統領は独裁者である王族に民主主義や人権についてレクチャーするような真似は一切しないのですから。

 これら湾岸3カ国のいずれもが、サウジの「ヴィジョン2030」に代表されるような将来戦略を有しており、各々が急進的な経済社会改革に取り組んでいる最中にあることも忘れてはなりません。

 また、これらの国々は、人口もそれほど大きくなく、安全保障も自ら十全に確保できない中で、自国の安定の根幹を揺るがすような混乱や不安定さ、ましてや大規模な戦争の惨禍が訪れることを日々恐れています。こうした湾岸3カ国の内情も、孤立主義的傾向を強めながらも一連の和平仲介を試みるトランプ政権の動きと大きな親和性があるわけです。

 トランプ大統領は、リヤドでの投資フォーラムにおいて、そうした湾岸の王族たちの気持ちを忖度するかのように、「私たちの目の前で、新しい世代のリーダーたちが古い対立や疲れた分断を超え、混乱ではなく商業によって定義される中東の未来を築いている」と指摘しつつ、ムハンマド皇太子が大好きだというメッセージまで送っています。

 湾岸3カ国にせよ、米国にせよ、彼我ともに内政上の利益を最大に優先させた結果が、トランプ大統領の中東訪問の大きな成果に如実に現れているといっても過言ではありません。

カタールに向かう大統領専用機で取材に対応するトランプ大統領(2025年5月14日、写真:AP/アフロ)