規制下でも開発継続、中国半導体産業の強じん性
ファーウェイは米商務省の貿易制限リスト「エンティティー・リスト」に加えられているが、2023年には国産プロセッサーを搭載したハイエンドのスマートフォン「Mate 60」を発売し、米政府関係者を驚かせた。今回の新半導体の開発も、米国の制裁下でも進む中国半導体産業のレジリエンス(強じん性)を示すものとWSJは指摘している。中国政府も国内のAI開発企業に対し、国産半導体の購入を奨励している。
性能・量産に課題、チップ連携で活路探る
一方で、ファーウェイには課題も山積している。現行のモデルの910CはエヌビディアのH100に匹敵すると宣伝されたが、実際に使用したエンジニアからはファーウェイの性能は競合製品に及ばなかったとの声も上がっている。新半導体の910Dが目標性能を達成できるかが最初の関門となる。
さらに大きな課題は量産化だ。ファーウェイは半導体ファウンドリー(受託生産)世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の先端プロセスを利用できない。中国半導体ファウンドリー最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)は、米政府から最先端製造装置の輸入を禁じられている。AIチップに不可欠なHBM(広帯域メモリー)などの重要部品へのアクセスも制限されている。
こうした制約を踏まえ、ファーウェイは半導体単体の性能向上だけでなく、多数の半導体を効率的に連携させてシステム全体の性能を高める戦略も重視している。2025年4月には、910Cを384基接続したコンピューティングシステム「CloudMatrix 384」を発表。調査分析会社、セミアナリシス(SemiAnalysis)は、個々のチップ性能では劣っても、システム全体で見ればエヌビディアの最新システム(Blackwellチップ72基搭載)を上回る可能性があると分析している。ただし消費電力は多いという。
ファーウェイのAI半導体開発は、米国の厳しい規制の下で技術的自立と市場確保を目指す中国の挑戦とも見て取れる。目標性能の達成と量産化という高いハードルを越え、AI半導体市場で圧倒的なシェアを持つエヌビディアの牙城にどこまで迫れるか、その成否は今後の米中技術覇権の行方にも影響を与えそうだ。