企業トップ随行はまるで州知事の外遊

 今回のトランプ氏の中東歴訪を、政治専門サイト「ポリティコ」は、こう皮肉った。

「大企業のトップを引き連れ、売買交渉、投資誘致を直談判するとは、大統領の外遊というよりも州知事の外遊のようだった」

 ジョージ・H・W・ブッシュ、ビル・クリントン、バラク・オバマ各大統領の国務省政策企画部長、国家安全保障会議(NSC)中東担当補佐官などを歴任したデニス・ロス氏は、こうコメントしている。

Dennis Ross - Wikipedia

大統領がこれほど独特の優先事項を持って行った外遊はこれまでに見たことがない」

「通常、大統領は同盟国との関係強化とか、潜在的敵国との紛争・対立解決が主目的だが、ビジネスや取引を最優先にするとは前代未聞だ」

Trump remakes the foreign trip - POLITICO

国家をもコントロールするビッグ・テック

 ところが、「事態はトランプ氏の外交スタイルよりもっと深刻だ」と警鐘を鳴らす政治学者がいる。

 ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏だ。

イアン・ブレマー - Wikipedia

 同氏は数年前から「テクノポラー」(Technopolar)という新語を使って、ビッグ・テック(Big Tech=大手テクノロジー企業)が地政学的な影響力を及ぼす「テック企業極」を表現してきた。

 Polarとは北極、南極の極。つまり巨大なテクノロジーを中心に動く世界のことだ。

 まさに政府の権力の及ばない別世界。

 ブレマー氏は外交専門誌の「フォーリン・アフェアーズ」(Foreign Affairs)の最新号(5月17日付)で「The Technopolar Paradox: the frighting Fusion of tech Power and Syaye Power」という論文を寄稿している。

 要旨はこうだ。

一、テクノポラリティ(テック企業極)は2022年のロシアによるウクライナ侵攻でウクライナの政府・軍隊の司令塔が脅かされた時点から加速した。

二、イーロン・マスク氏はウクライナにロシア軍の動向を上空から探知できるスターリンクを供与したことでロシアの侵攻を鈍化させた。

 ウクライナはスターリンクをクリミアにも展開するよう要請したがマスク氏は戦争がエスカレートすることを理由にはこれを拒否した。米国防総省が要求してもマスク氏は断った。

三、選挙で選ばれたこともないハイテク企業の億万長者が戦争の軌道を変えてしまった。大統領、国防長官、NSCができないことをマスク氏はやっていた。まさにテクノポラリティが機能し始めたのである。

四、政府権力はビッグ・テックが経済、社会、政治各領域に影響力を及ぼす状況に反撃を試みたが、政府はクラウド・システムやサイバーセキュリティ・プラットフォーム、データセンターや衛星などに依存せざるを得なくなっていた。

 ビッグ・テックは政府の中心的なインフラすらコントロールし始めていたのである

Ian Bremmer: The Frightening Fusion of Tech Power and State Power