頭を使い、時間をかけて慎重に観察する

 アレクサンダー・グラハム・ベルは、米国ワシントンDCの「フレンズ・スクール」のステージに上がり、1914年度の卒業式でスピーチをしたとき、67歳でした。

 雪のように白いあごひげをすっとのばしたこの通信のパイオニアは、いまや孫も生まれ、キャリアは終わりに近づいていました。

 電話の発明でもっともよく知られる人物ですが、エアコン、金属探知機、太陽発電パネルなど、未来で実現されることになるアイデアについての30件の特許も持っていました。

 そのベルでさえ、いつもじっくりと自分の身の周りを観察できているわけではないと打ちあけたとき、聞いていた人たちはおどろきました。

 ベルが当時、カナダのノバスコシアにある家族の土地を散歩したときのことでした。そこはなじみが深く、なんでも知っていると思っていた場所です。しかしベルは、コケにおおわれた谷があり、海につながっていることを知ってショックを受けます。

「人はみな、うっかりものを見ずに人生を歩んでしまいがちです」。そうかれは言いました。「身の周り、足元には、見たことのないものであふれています。つまり、私たちは本当に見ようとしたことがないのです」。

 みなさんは、24時間365日注意をはらう必要がある、信じられないほど速いペースで動く世界に住んでいます。みなさんの脳には無限の可能性がありますが、注意力の方は有限です。

 私たちはまさに探しているものばかりを見ようとして、あまりに速く見すぎるために、多くのことを見のがしているかもしれません。常に注意をはらわなかったために、ベルはなにか他のすばらしい発明をやり残してしまったのでしょうか。

 私たちも、なにかをやり残しているのでしょうか。

(中略)

 どのような状況でも、より多くの情報を集めるためには、「頭を使いなさい」と言われるまで待っていてはいけません。自分から頭を使えば、世界を変えるためになにが必要なのかを、発見できるかもしれないのです!

 そのためにスピードを落とすことは必要ですが、これは、ゆっくり動くという意味ではありません。見ているものを自分の中に取りこむのに、より多くの時間をかけるということなのです。

 ディテールやパターン、関係を読みとくのは時間がかかります。ここを急いで通りすぎてしまうと、情報を取りのがしてしまう可能性があるのです。