息子をかたぐるましてエアフォースワンを降りるイーロン・マスク氏(写真:ロイター/アフロ)
第二次トランプ政権で新設された「政府効率化省(DOGE)」のトップとなり、その言動が世界中から注目を集める実業家のイーロン・マスク氏。世界の命運を握る彼の半生と行動原理が分かる「公式伝記」は2023年に世界同時発売され、翻訳書のエキスパートが選ぶ2023年のベストワンにも選出。ロングセラーとなっている。マスク氏の自動車・宇宙・SNSと多岐にわたるビジネスのアルゴリズムとはどのようなものなのか。
※この記事は、『イーロン・マスク』(文藝春秋)より一部抜粋・編集しました。
マスクのアルゴリズム
生産に関する会議では、テスラでもスペースXでも、マスクは「アルゴリズム」なるものを持ち出すことが多い。ネバダとフリーモント工場で経験した生産地獄から学んだ成果だ。マスクの言葉に合わせて、同席した幹部の唇が動いたり、言葉が発せられたりする。神官と一緒に祈りの言葉を口にするかのように。
「アルゴリズム、アルゴリズムって壊れたレコードみたいですが、でも、耳タコになるほどくり返すべきものだと思うんです」
その戒律は5つだ。
【第1戒】
要件はすべて疑え。要件には、それを定めた担当者の名前を付すこと。「法務部」や「安全管理部」など部門名しか付されていない要件を受理してはならない。必ず、定めた本人の名前を確認しろ。そして、その要件を疑え。担当者がどれほど頭のいい人物であっても、だ。頭のいい人間が決めた要件ほど危ない。疑われにくいからだ。私が定めたものであっても、要件は必ず疑え。そして、おかしなところを少しでも減らせ。
【第2戒】
部品や工程はできるかぎり減らせ。あとで元に戻さなければならなくなるかもしれないが、それでいい。実際のところ、10%以上を元に戻さなければならなくならないのなら、それは減らし足りないということだ。
【第3戒】
シンプルに、最適にしろ。これは第2戒のあとにやるべきことだ。そもそもそこにあってはならない部品やプロセスをシンプルにしたり最適化したりしてしまうのは、よくある間違いだ。
【第4戒】
サイクルタイムを短くしろ。工程は必ずスピードアップが可能だ。ただし、第1戒から第3戒までが終わったあとにやること。テスラの工場では、なくすべきだったとのちに気づく工程をスピードアップするのにかなりの時間を使うという愚を犯してしまった。
【第5戒】
自動化しろ。これは最終段階だ。ネバダでもフリーモントでも、一番のまちがいは、ステップの自動化から始めてしまったことだ。要件をすべて洗い直し、部品や工程を減らせるだけ減らし、バグをつぶし切るまで自動化は待たなければならない。

