「トランプセッション」で下落止まらず?

 中国の原油需要はガソリン、ディーゼルなどの輸送部門からプラスチックなどの石油製品部門にシフトしており、全体の水準も弱含みするとの見方が一般的だ。

 中国では3月5日から11日にかけて全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開催されたが、昨年までとは異なり、市場がこれに反応することはなかった。

 市場関係者が注目しているのは米国を巡る動きだ。

 ライト・エネルギー長官が7日「戦略石油備蓄(SPR)の補充目標を達成するために200億ドルの予算を調達する」と発言したことが「買い」を誘った。

 カナダとの貿易戦争は予断を許さない情勢になりつつある。

 カナダのウィルキンソン・エネルギー天然資源相は11日「米国との貿易戦争が一段と激化すれば、米国への原油輸出の制限といった関税以外の措置を講じる可能性がある」と述べた。カナダ側は事態悪化に備え、アジア向けの原油輸出を拡大する取り組みに着手している。

 トランプ関税の不確実性も高まるばかりだ。

 トランプ氏が9日のFOXニュースのインタビューで、自身の関税政策により米国が景気後退するかについての言及を避けたため、市場のセンチメントは一気に悪化した。

「トランプセッション」という用語も耳にするようになった。

 トランプ氏の関税攻勢が引き金となって米国と各国との間で貿易戦争が多発し、その結果、世界規模の景気後退が起きてしまうとの懸念を示している。

 石油商社ビトルのハーディCEOは10日「中国や世界の軟調な経済成長が需要を圧迫し、原油価格は1バレル=60ドルから80ドルの間で変動する可能性が高い」との見方を示したが、筆者は「需要不足による下押し圧力は大きく、原油価格は60ドル割れする可能性が高いのではないか」と考えている。

 思い起こせば、新型コロナのパンデミックに起因する需要不足のせいで2020年の原油価格は一時、史上初のマイナスを記録した。その後、OPECプラスの大規模減産のおかげでプラス圏に戻ったが、年間平均で前年に比べ25%以上も下落した。

 トランプ氏の言動が落ち着きを見せない限り、原油価格の下落は止まらないのではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。