フェイク写真を流した若者の「大義」
堀:逃げたライオンの画像は外国の写真を加工したものでした。その時に安易にフェイク画像を放ったのは神奈川県に住む二十歳の会社員の男性だということが明らかになりましたが、動植物園側は犯人の身元が明らかになっても、熟慮の末、提訴はしないことにしました。
とはいえ、動植物園側は今も複雑な思いを抱えています。当時は罰しないという判断をしたけれど、本当にそれでよかったのかと悩む気持ちもあるようです。
偽情報が安易に仕掛けられる時代になったからこそ、もっと厳粛な対処をしたほうがその後のことを考えると良かったのではないかという感想も嚙みしめながら、インタビューに答えてくださいました。
──この本の中では、静岡の水害の時にデマ情報を流した人物に堀さんがインタビューされています。
堀:はい、彼には彼なりの大義があったようです。「あなたたちはこんなに簡単に踊らされるんですよ」「やばくないですか?」という、ある意味、ひとつ高みの目線から実際に混乱を引き起こすことで世の中を啓蒙しようという意図があったそうです。
ひとつの問題提起のあり方なのかもしれないけれど、あまりにも悪い影響が大きすぎます。その思いはインタビュー時に本人にも伝えました。
──でも、堀さんとデマ情報を流した人物の最終的な考えは一致していたそうですね。
堀:そうなんですよ。私はただ「こういう行為はいかがなものか」という責任の追及に終始するのではなく、「では、どうしたらいいのか」という議論をもっと喚起させたいと思っています。
そう思って彼と話していると、「マスメディアの方の良いところは現場に行くことですよね」とインタビューの中で言うんですよ。そう言われて複雑な気持ちにもなりましたが、「そうなんですよ」と同意しました。
YouTubeのようなオンライン系のニュースのメインコンテンツは、文献情報なども紹介しながら起きたことを分かりやすく解説する解説動画や解説記事です。それに対して、実際に現場はこうなっている、本人はこう言っている、と報じる一次情報の供給量が二次情報や三次情報に対して相対的に少ない。
だからフェイク写真を流していいということにはなりませんが、デマを流した人物はそうした問題意識を持っていました。
──なぜ二次・三次情報がそれほど増えているのでしょうか?