私がマイナス金利を支持する理由

渡辺:少し話が飛躍しますが、-10℃と10℃、どちらが良いかと問われても、答えを出すのは難しいのではないでしょうか。寒がりの人は10℃がいいと答えますし、暑がりの人は-10℃のほうがましだと言うでしょう。

 したがって、金利もプラスだからいい、マイナスだから悪いと一概に言い切ることは危険だと思っています。

 私は、金利も温度のように「ゼロ」を意識せずにプラスとマイナスを行き来できるようにすべきだと考えています。

 日銀が「金利ゼロ」という特別な関所を作っているがために、マイナス金利が世間に浸透しない状態ができてしまっています。それは経済の中で、非常に不自然ではないかと私は思っています。

 そのときどきの情勢に応じて、金利もプラスやマイナスを行き来すべきです。これが健全な経済の状態ではないでしょうか。

 これまで、マイナス金利の悪い側面が強調されてきましたが、私は「マイナス金利は悪」と決めつけるのではなく、「マイナス金利があってもいいよね」という世の中になっていくべきだと考えています。

──先ほど「日銀券は金利ゼロ」というお話がありました。日銀券にも、今後マイナスであれプラスであれ、金利をつけると良いということでしょうか。

渡辺:私はそう思っています。

 昔は当然、1万円札に金利をつけるなんて技術的に不可能でした。だからこそ、日銀は紙幣の金利をゼロにするしかありませんでした。

 もちろん、現在でも日銀券は完全にデジタル化しているわけではありませんので、全ての日銀券に金利をつけることはできません。けれども、皆さんのスマートフォンの中には、いくらかのお金が電子マネーとして登録されていると思います。そこに金利をつけることは今やたやすいことではないでしょうか。

 また、日銀をはじめ他国の中央銀行も、現在、中央銀行デジタル通貨と呼ばれるデジタル銀行券の発行を検討しています。いつ実現するかはわかりませんが、中央銀行デジタル通貨であれば金利をつけることは難しくはありません。

 これまで私たちは「通貨だから金利をつけられるはずがない」という固定観念に縛られていきました。けれども、技術の発展によって、もはやそのような呪縛から解放される日も近いのではないかと私は期待しています。これも、私がマイナス金利をサポートしたいと考える理由の一つです。

──書籍の中で、「私は、(私を含む)多くの研究者が『インフレ率が5%未満であれば価格硬直性に由来する価格のバラツキはさほど深刻ではない』と考えている」とありました。その一方で、渡辺先生は日銀が今後のインフレの目標値を2%未満に引き下げるのではないかと予測していました。