天皇の権威が失われると何が起こるか?

──今後、消費と権威のはざまで皇室とメディアはどのような関係を築いていくのが好ましいと思いますか。

河西:日本では、今はいろいろなところで天皇制にかぎらず権威が崩壊しているように感じます。今、まさにフジテレビが激しいバッシングを受けていますが、それも権威の崩壊の一つだと私は考えています。

 戦後長らく、権威であり続けたものが崩壊しかけている現状をただ眺めているだけでいいのかという問題もあります。権威なき後、何が起こるのかというと、そこには無秩序が待ち構えています。皆が皆、好き勝手に皇室批判をするような状況になってしまうでしょう。

 天皇制なるものは、例えば被災地訪問なども含めて、やはりどこか権威的なものが必要です。それがなければ、天皇制を続ける意味すらなくなってしまうかもしれません。

 ある程度の権威としての天皇制は必要ですが、その権威を悪用しようとする人ももちろんいるでしょう。例えば、現在の皇室典範では、天皇になれるのは男性だけです。それを根拠に、「男性のほうが女性よりも優れている」という男女差別をする、男女同権を否定する論理に結びつけられる危険性もあります。

 権威が純然たる権威として悪用されないように監視するのは、メディアの役割の一つです。権威と消費、人間らしさ、というバランスは、その時代にどのようなものが相応しいのか、メディアも含め国民がきちんと考えていく必要があると思っています。

「皇室とメディアの関係はこうあるべきだ」というすべての時代に対応可能な処方箋はありません。固定化しないことが重要だと思います。

河西秀哉(かわにし・ひでや)
名古屋大学大学院人文学研究科准教授
1977年、愛知県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(歴史学)。京都大学大学文書館助教、神戸女学院大学文学部准教授などを経て現職。主な著書に、『近代天皇制から象徴天皇制へ』(吉田書店)、『天皇制と民主主義の昭和史』、『平成の天皇と戦後日本』(いずれも人文書院)などがある。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。