3.「徳」を身に付ける人格形成に必要な個性を伸ばす教育

 教育現場において「徳」を身に付け、モラル、意欲、リーダーシップを高めるには何が大切だろうか。

 それは一人ひとりがもつ個性を見出し、それを伸び伸びと育んで、思う存分各自の能力を発揮させる機会を与えることである。

 大谷翔平、藤井聡太、小澤征爾などその道を究めた人々は、子供の頃から周囲の人々によってその才能が大切に育まれ、素晴らしい才能を開花させた。

 そうした人々に共通しているのは、常に人々に感謝し、みんなのために自分ができることを考えていることである。

 これは「徳」の実践そのものである。

 日本を代表する東洋思想研究家である田口佳史先生によれば、「徳」とは「他者のために自己の最善を尽くし切ること」である。

「他者のためにできること」を常に心がけて真心を込めて実践している人がいれば、その人に直接助けられた人々、チャレンジする勇気、激励、重要なヒントなどをもらった人々はその人に深く感謝する。

 そして、いつか恩返しができたらいいと考える。

 自分の周囲にそんな感謝の気持を抱いている人たちがたくさんいる人生になれば、楽しく愉快な人生にならないはずがない。

 これが「徳」の本質である。

 代表的な中国古典「大学」の最初は次の一文から始まる。「大学の道は、明徳を明らかにするにあり」。

「徳」を身につけることが学問の究極の目的であるということである。

 それに続いて、「徳」が身に付けば、人生の軸となる志が定まり、心が落ち着き、心にゆとりができ、正しい判断を下せるようになり、最終的に自分が目指す目標を達成できるようになる、という教えが示されている。

 これは、前述のその道を究めた人たちに共通する人生の道筋である。

 この幸せで充実した人生の道を歩むには自分自身が得意なことに気づくことが大切である。

 自分が得意な分野の能力を伸ばせば、周囲の人達が応援してくれる。応援された人は応援してくれる周囲の人々に感謝する。

 その感謝の気持ちが本人のさらなる努力のエネルギー源になる。

 こうして「徳」を身に付けた人が、周囲に感謝し、周囲の人々から感謝される人生を送れば、モラル、意欲、リーダーシップが高まる。

 そんな人物が闇バイト、幼児虐待、不正隠蔽に走るだろうか。答えは明らかである。

 すなわち、初等中等教育において、子供たち一人ひとりの個性を伸ばし、その能力を思う存分発揮させ、個性を大切に育んでいく本来の教育を徹底すれば、「徳」が身に付き、モラル、意欲、リーダーシップは必然的に高まる。これが人格形成教育である。