(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年2月3日付)

欧州では今、競争力をめぐる議論が最大の関心事になっている。
欧州中央銀行(ECB)前総裁のマリオ・ドラギ氏が発表した報告書「ドラギ・リポート」に応える形で欧州委員会が新たにまとめた政策文書「競争力コンパス(羅針盤)」は、欧州連合(EU)に独自の人工知能(AI)インフラの構築、産業政策への取り組み強化、単一市場統合の完成を求めている。
いずれも立派な目標だが、米国人の筆者がベルギー・ブリュッセルの空港に先日降り立った時、頭に浮かんだのは「どうして入国審査に3時間待ちの行列ができるのか」ということだけだった。
米国の関税と中国のEVダンピングの板挟み
これはよそ者の単なる個人的感想ではない(少なくとも、それだけではない)。
筆者には欧州で10年暮らし、働いた経験がある。ちょうど単一通貨が導入された頃だ。当時は楽観論に満ちていた。
だが、あれ以降、欧州は経済面で米国に後れを取っている。
経済成長率、人口1人当たりの所得、資本市場の規模、時価総額の大きなテクノロジー企業の数など、ほとんどの指標で差をつけられている。
悪いニュースばかりではない。
インフレ率は確かに低下しており、ドイツと英国では、米大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の当選の影響を受けて株価が上昇している。
投資家が投資先を分散させようとしているからだ。
だが、欧州大陸が米国からの関税の脅しと中国からの電気自動車(EV)ダンピングの間で非常に苦しんでいるだけに、経済的な軌道を抜本的に変えるために欧州ができることを精査してみる価値はある。
欧州への投資を阻む低成長
ウォール街が欧州に投資する理由を必死に探していることは断言できる。
米国市場は集中度が過度に高まっており、中国製AIのニュースを受けてテック株が急落した1月末のようなショックに脆弱だ。
また、米国はしばらく景気後退に見舞われておらず、ドナルド・トランプ大統領の突飛な行動によってその引き金をあっさり引かれる恐れもある。
だが、投資家が望んでいるのは経済成長だ。
1月末に発表されたユーロ圏の国内総生産(GDP)統計は地域の成長が0%になったことを示している。ドイツとフランスがともにマイナス成長だったことが響いた。
分散したいのは投資家だけではない。
欧州諸国は、米国の巨大テック企業からの独立性を高める必要性を承知している。それには経済的な理由と政治的な理由の両方がある。
筆者が先日ブリュッセルで参加した競争力に関する会議では、フランス競争当局のトップを務める経済学者ブノワ・クーレ氏は英国の競争・市場庁(CMA)に言及し、今や元アマゾン・ドット・コム幹部が率いるこの組織の弱体化は、政治的な影響力がいかにして国家の主権を害するかという「教訓話」だと指摘した。