特定口座(源泉徴収あり)で取引していた人が、損失を出した年を対象とした申告で、口座のマイナス分の繰り越し控除を申告せずに医療費控除や寄附金控除など他の申告をしていたケースだ。この場合は、繰り越し控除の申告を「本人の意思でしなかった」と見なされてしまう。

 例えば、2021年に株式投資で大損をした人が繰り越し控除の申告をせずに、その年の医療費控除を申告したとする。その人が2024年に株で大儲けをして、「過去3年間分は繰り越し控除ができるはず」と思いつき、遡って2021年の繰り越し控除を申告しようとしても、それは認められない。

定額減税がゼロになってしまう条件とは

 思わぬ落とし穴はもう一つある。

 2024年には岸田前政権肝煎りの定額減税が実施されており、繰り越し控除を適用して2024年の利益を2023年以前の損失と相殺しようと考えている人はこの定額減税にも注意が必要になる。

 定額減税を受けられる納税者の条件に、「合計所得金額1805万円(給与収入のみの場合は2000万円)以下」というものがある。実は、この合計所得金額が曲者なのだ。

 合計所得金額とは、2024年の給与や年金などの所得に株式の譲渡益や配当を加えた金額。そこから同じ年の株式投信や特定公社債で出した損は相殺できるが、肝心の2023年以前の損失分はマイナスされていない。

 つまり、少なからぬ譲渡益や配当があって繰り越し損失を差し引く前の金額が1805万円を超えていたら、定額減税がゼロになってしまう可能性があるわけだ。

 定額減税は納税者本人だけでなく、生計を同じくする配偶者や親族も同額(所得税3万円、住民税1万円)が受けられる。扶養親族の人数に比例して減税額も大きくなり、大家族ほどそれがなくなってしまう影響は甚大だ。場合によっては「繰り越し控除の申告をしない」という選択肢もあるだろう。

 利益にこだわる投資家だからこそ、投資への課税も意識したい。これまでの指摘に当てはまる人は、間もなく始まる確定申告の参考にしてほしい。