ロシアへの敬意と欧州への軽蔑
この煽動がマスク独りによるものだったら、英国やドイツなどの国々も対処できるかもしれない。
英国の大衆はマスクを嫌っており、その影響力が抑えられている。
調査機関ユーガブが英国で最近行った世論調査によれば、マスクに好意的な回答は全体の5分の1にも満たなかった。
マスクは自らの知識不足にも足を引っ張られている。
例えば、右派政党「リフォームUK」党首のナイジェル・ファラージの交代を求めることで、同党がファラージの個人商店であるという事実を見落とした。
チャールズ国王は英議会を解散すべきだと訴えていることも、知識不足の疑いが強まる要因になっている。
英国の総選挙の実施時期を決めるのは、君主ではなく選挙で選ばれた政権だ。
マスクのドイツへの影響――そしてドイツについての知識――はもっと少ないかもしれない。
それに比べると、中国について沈黙を守っていることは理解しやすい。
自身が所有する自動車メーカーのテスラは中国で大々的に事業を展開しており、それを危険にさらしたくないのだろう。
世界に対するトランプのアプローチの基本は損得勘定だ。したがって、その対中国政策は条件次第で変わり得る。
それとは対照的に、マスクはウラジーミル・プーチンのロシアに対するトランプの敬意と欧州に対する軽蔑を増幅させる。
これをいわゆるトローリング(荒し)にすぎないと見なすのは早計だ。
またカネだけの問題でもない。欧州のリベラルな民主主義に対するトランプ、マスクの反感は本物だ。
この2人はウクライナの戦争をロシアに有利になるかもしれない条件で早く終わらせたいという考えも共有している。
ドイツのAfDはウクライナ支援の打ち切りを公約している。スターマーは逆に英国のウクライナ支援を増強した。
このように大西洋同盟の東側は海図なき航海に直面している。
常に最善の展開を期待して行動するのが欧州のやり方だが、今回は最悪の事態に備えるべきだ。
(文中敬称略)