マスクが「言わないこと」の重み

 同じくらい重要なのは、マスクが「何を言っていないか」だ。

 ドイツや英国に罵声を浴びせる一方でロシアや中国に対しては沈黙を守っていることの方が、マスクの本心をよりはっきりと物語っている。

 マスクはこれらの専制国家の政治的抑圧に反対したり、投獄されている政治犯を支持したりする発言を一度もしていない。

 ところが、英国の極右活動家で5度目の刑期を務めているトミー・ロビンソン受刑者を良心の囚人(政治犯)だと持ち上げている。

 また、パキスタン系英国人の男性が主体のギャングの犠牲になったイングランドの子供たちの件では、マスクが子供たちのためを思って行動しているわけではないと言って差し支えない。

 最近話題になっている英国の児童性的虐待スキャンダルは20年以上前に端を発している。

 その間、ほとんどの期間で保守党が政権を握っており、マスクは当時、何も言わなかった。

 ところが労働党政権になって突然、マスクは英国の児童福祉に強い関心を示し始めた。

 スターマー政権のジェス・フィリップス政務次官に「レイプ・ジェノサイドの擁護者」というレッテルを張った。

 英国では25万人の児童が組織的に虐待されているとも主張している。

 マスクがまき散らす偽情報をすべて捕捉するには、人工知能(AI)並みの大きさのウソ発見器が必要になる。

 投稿はすでに数分おきに行われており、その投稿ペースに勝るのは内容の衝撃度合いだけだ。

 一方、自宅から連れ去られてロシア人家族と無理やり養子縁組させられたウクライナ人の子供たち(推計2万人)への心配はどこでも表明したことがない。