解剖医師とメルチュ社長を結ぶ点と線

 最後に、本稿冒頭で触れた「日本人女医」問題との、メディアの観点からの連関を記しておこうと思います。

 これは一般の報道には一切出ていないように思いますが、「東京美容外科」沖縄院院長女医はSNSに「いざ、Fresh cadaver(新鮮な御遺体)解剖しに行きます!!」と投稿している。

 その「Fresh cadaver(新鮮な御遺体)」の部分で、舞い上がっている点に注意する必要があるでしょう。

 以下は40年ほど前、養老孟司先生にご指導いただいたポイントになります。

 一般に、日本国内で医学部2、3年生などが実習で触れる「剖体(ご献体)cadaver」は、献体の意思を遺言した方が亡くなられた後、大学の解剖学教室が責任をもってご遺体をお預かりし、まず半年ほど「ホルマリン」に漬けて、たんぱく質を固定します。

 次に、そのままでは解剖実習している学生の手の「タンパク質も固定」されかねないので、ホルマリンをアルコールに置換するべく漬け直して、実習の準備を整えます。

 剖体は基本不足しており、貴重なご厚志ですから、医学生は感謝して接さねばならないのは言うまでもありません。

 ただ、ここで触れられるのは、1年以上前に亡くなられ半年間ホルマリン、半年間アルコールに漬けられ、完全に変性した人体なので、整形外科手術などの最前線で求められる、生身の患者さんの体にメスを入れた先の応答とは、全く異なります。

 そこで問題になるのが今回の「Fresh cadaver(新鮮な御遺体)」です。

 病理解剖とか、法医学解剖などでは、亡くなった直後の人体にメスを入れますが、日本では整形外科医などが母校で研修するとしても、法的な機制もあり、回ってくるのは余剰の「ホルマリン固定後」のCadaverのみ。

 察するにこの女医さん、国内では禁止状態にある「亡くなったばかりの未処理遺体への実習解剖」は、生まれて初めてだったのでしょう。

 ホルマリンなどで固定されていない、生きた状態に近い「Fresh cadaver」にメスが入れられるのが、正味で嬉しかったことがよく分かります。

 それが「頭部がたくさん並んでいるよ(ニコニコマークの絵文字)」という論外な情報発信の実態と思われます。

 そして調子に乗り、考えもなくあれこれやり散らかした。

 本人としては、整形外科研修で未固定処理の献体にメスを入れた経験を持てば、日本国内の他の同科医師たちに対してアドバンテージが取れますから、「いざ!」と勇躍、その事実を喧伝しまくったのでしょう。

 この「普段存在しない状況で調子に乗り、あれこれやりちらかした」あたりは、「メルチュ」の女性社長とも酷似して見えます。

「選挙は総合格闘技」とか、素人感想を開陳していましたが、それは単に公選法違反なだけであることが分かっていない。

 未曾有の状況でハイになり、考えのない愚行に及ぶところはほぼ同根で、違いは医師が「倫理」に反するのに対して、「メルチュ」は「公職選挙法」に明確に違反しており、司直の手が及ぶという部分でしょう。

 このような末期状況を法改正など含め刷新する、新しい年にしていかねばならないと強く思う次第です。