イチローはなぜメジャーのあり方を批判したのか(写真:共同通信社)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 米大リーグで通算3089安打をマークしたイチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)に密着したMBS/TBS系のドキュメンタリー番組「情熱大陸」が22、23日に2夜連続で放送された。番組の中で、同時期に巨人と米ヤンキースで活躍した松井秀喜氏が「今のメジャー見ているとストレスたまりません?」と振り、イチロー氏が「たまる、たまる。めちゃめちゃたまるよ!退屈な野球」と応じた場面があった。

 データの蓄積によって野球が統計学に支配されるようになり、かつてような試合の醍醐味を感じ難くなっているという趣旨の発言だ。データで選手の特徴や試合運びなどが可視化されるようになったことに加え、最近では試合時間の短縮を優先してルールが改正され、攻守の“間合い”も取り払われてしまった。

 なぜ、2人のレジェンドは現在のメジャーのあり方を公然と批判したのか。

「退屈」の元凶はデータ

 2人の会話は互いの波長が合って弾んだ。

「打順の意味とか、そういうのがなんか薄れちゃってますよね」と松井氏がたたみかけると、イチロー氏も「それぞれの役割みたいなことがまったくないもんね」とうなずいた。

「退屈」の元凶は、データによる可視化されたベースボールに凝縮される。

 打撃や守りなどプレーに関する様々なデータを集めて分析する統計学「セイバーメトリクス」が広く注目を集めたのは、2000年代初頭に書籍が発売(日本語版は04年)され映画にもなった『マネーボール」だろう。