監視や弾圧を強化した習近平指導部

 中国の憲法は信教の自由を保障している。しかし現実には、あらゆる宗教が中国共産党の管理下におかれている。非公認の宗教組織は「邪教」として取り締まりの対象になる。異様に見えるが、考えてみれば、日本も戦前・戦中は似たようなものだった。国家神道の下で当局の意向に従う宗教団体だけが活動を公認され、従わなければ苛烈な弾圧を受けた。

 中国当局は現在、キリスト教のカトリックとプロテスタント、仏教、イスラム教、道教などを公認。国内には非公認宗教を含め、信仰を持つ人が3億人を超すとされる。

 ロシア正教会の流れをくむ「東正教」も、ロシア系少数民族オロス族の信仰として黒竜江省や新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区で当局の承認を得ているが、正式な指導者は不在のままだ。

 中国最北部・黒竜江省の省都ハルビンの繁華街にある聖ソフィア大聖堂を訪れると、中国にいることを忘れるほど美しい緑のドームと重厚なレンガ造りのロシア建築だったが、教会としての機能は失われ、現在は歴史博物館として、結婚写真などの人気撮影スポットになっていた。

 中国各地に点在する三国時代の英雄たちを祭る廟も、中国共産党の管理下にある宗教施設と、「ここは宗教施設ではありません」と掲示された観光施設に厳格に分けられている。

 2012年に発足した習近平指導部は宗教を潜在的脅威と捉え、宗教よりも中国共産党の指導を優先させる「宗教の中国化」を加速させてきた。

 少数民族のウイグル族(人口約1200万人)や回族(唐や宋の時代に中国に渡来したアラブ人らが起源とされ、人口約1100万人)が信仰するイスラム教を「テロを起こす宗教過激主義の温床」と警戒。共産党員数(約9900万人)を上回る数がいるとされるキリスト教徒に対しても、政府公認教会の監視や、非公認組織「地下教会」への弾圧を強化した。

 2018年施行の宗教事務条例では「境外勢力(外国勢力)の支配」の排除を明記した。習近平指導部は「外国の反中勢力は宗教を利用して中国政府を転覆しようとしている」として、海外ともつながる宗教活動が反共産党的な動きと連動することを警戒。当局が認めない聖職者のいるキリスト教会を閉鎖してきた。キリスト教徒である北京市内の30代女性は「共産党は宗教自体を良く思っていない。信仰者への締め付けは今後もっと厳しくなると思う」と嘆いた。