もはや進まないフランス経済の構造改革
今のフランスが最優先すべきは、2025年予算を成立させることにほかならない。これまでは憲法49条3項に基づき、内閣が国民議会の採決を経ずに強制で成立させることができたが、バルニエ政権が内閣不信任決議を経て退陣に追い込まれたように、そうした強硬な手段はもう取れない。しかし予算が成立しなければ、経済運営が停滞する。
予算が成立しないままでは財政危機に陥る展開も意識されるため、さすがに2025年度予算がいつまでも成立しないということはないだろう。新政権の組閣に成功し、新年度予算が成立したとしても、国民議会の解散総選挙観測がくすぶるなど政局が極度に流動化しているため、マクロン大統領は安定した政権運営など望めない状況が続くことになる。
こうした状況下では、マクロン大統領が公約に掲げてきた経済の構造改革など進まない。改革が停滞したまま、マクロン大統領は2027年5月の任期満了を迎えるのではないか。このままだとマクロン大統領は、経済の構造改革を道半ばで放棄した一方で、政治に大混乱をもたらした「バルカン政治家」として後世に名を残すことになりかねない。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。