覚醒剤の取引現場近くにいたお手伝いさん

 Xは取り引きの現場について詳細を供述している。

検察 かなり取り引きには注意をしていたんですよね。

X 罠として襲われる可能性があるかもしれないので、(車の中で)身構えていました。

検察 コンビニにはお客さんはいましたか?

X 若い男性客が数人いましたが、ヤバそうな奴らではなかった。若い女性(早貴被告)が出て来て取引現場にする暗がりに行った後に、コンビニから出てきたのは例の家政婦のばあさんだった。

 なんとXは現場に野崎氏宅の家政婦の大下さん(仮名)が姿を現していたというのだ。田辺出身の大下さんの本当の住まいは東京にある。病気の父親の世話をするために月に1週間から10日ほど帰省するときには、旧知の野崎氏の身の回りの世話をしながら、野崎氏宅のゲストルームで寝起きしていた。

 なぜこの証言が重要なのか。

 早貴被告が覚醒剤ないし氷砂糖の取り引きに行った4月7日の夜は、野崎氏は仕事で出張中であり、自宅を留守にしていた。そしていくら近所とはいえ、深夜に真っ暗な取引場所まで行くのは運転免許を持っていない早貴被告にとって面倒だったに違いない。そこで大下さんに頼んで車で送ってもらったという可能性が考えられるのだ。

 もちろん早貴被告は大下さんに「覚醒剤を買いに行く」などとは説明しないだろう。「コンビニまで送って」などと頼めば大下さんも承知してくれたはずだ。

2018年5月25日、「紀州のドン・ファン」野崎幸助氏が急死した翌日の夜、和歌山県警の刑事に妻だった須藤早貴被告(左)が任意同行を求められた瞬間。中央がお手伝いさんの大下さん(写真:吉田 隆)*写真は一部加工しています
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 だとすれば、このとき早貴被告は“覚醒剤”取引の現場を、大下さんに感づかれることを恐れていたはずだ。「社長(野崎氏)に覚醒剤の入手を頼まれちゃった」などというセリフは、大下さんはもちろん、アプリコ関係者も一切言聞いていない。早貴被告は、誰にも知られないように細心の注意を払って取り引きをしたはずだ。