中国で、習近平政権が広東省から四川省に工場などを大移動させる計画を進めているとの噂がネットで駆け巡っている。その数、1500社あまり。沿岸部から内陸部への基幹産業の大移動は毛沢東時代にもあった。当時は旧ソ連や米国の核の脅威から守る、という名目だったという。その再来ならば、戦争の準備ということか?
(福島 香織:ジャーナリスト)
中国のネット上で最近話題になっているのは、広東省の1500社余りの工場が内陸の四川省に移転させる計画が進行中だ、という噂話だ。もし本当なら、広東省40年以来の大産業移転計画ということになる。
あながち単なる噂と笑い飛ばせないのは、毛沢東時代も、沿海部の国家基幹産業を旧ソ連の核の脅威から守るという名目で強引に雲南など内陸部に移転する三線建設政策をとったことがあり、毛沢東の政策を模倣してきた習近平ならばやりかねない、という見方があるからだ。
9月下旬に人民銀行が発表した大規模金融緩和政策、10月12日に財政部が発表した推計6兆元規模の財政出動、さらに現在パブリックコメントが募集されている民営経済促進法案の立法の動きなど、「経済軽視でこの10年あまり政権を運営してきた習近平らしからぬ」景気浮揚政策パッケージが立て続けに打ち出されており、その結果、外資による中国株ETF乱高下現象が引き起こされている。
この動きから、ひょっとすると改革開放逆走路線をとってきた習近平が温家宝ら長老の叱責を受けて、心を入れ替えて経済政策の軌道を元の改革開放路線に回帰させるつもりではないか、という期待をいう人もいる。だが、もし三線建設のようなことをまたやり始めるのだとしたら、やはり習近平の目標は計画経済時代への回帰ではないだろうか、と人々が疑心暗鬼になったので、この噂は大きく拡散している。
10月15日に、中国のSNS上で、沿海部広東1500企業が内陸の西南地域の四川に移転する、という情報が流れはじめた。アカウントネーム「木心」の投稿によると、「広東省1500社の工場が四川に移転するらしい。この措置は巨大な意思を静かな湖に投げ入れるような激しい波紋をひきおこすだろう」という。
1500社の中には具体的に恵州TCL、聯想、小米、格力電器、長虹電子、海爾、華為といった有名ハイテク企業の名前が挙げられていた。
これが単なる噂と言い切れないのは、9月25日、上海の金融ハイテク関連のネットニュース・財聯社が、「国家は企業を東部から中西部に移転させるよう主導している」と報じていたからだ。「四川省は、党中央が国土空間計画に名を連ねる唯一の戦略的後背地とみなしている」とも。
新京報の10月13日付報道によれば、9月25日に党中央、政府が打ち出したハイクオリティ促進産業政策についての解説の中に、資金、技術、労働密集型産業を東部から中西部に、中心都市部から後背地に徐々に移転させていく、という描写があり、この意味について様々な憶測が飛んでいた。
中国の官製メディアはこの件については報道していないし、また公に否定もしていない。ラジオフリーアジアがこの件について、かつて毛沢東の「三線建設」に参与した学者の鄺錦利を取材しており、この動きが、1964年から70年代にかけて毛沢東の号令で行われた工業化戦略『三線建設』と似ているというコメントを引き出している。