水素カートリッジは「水素社会」への入口となるか

 トヨタは2015年に乗用FCEV(燃料電池車)「MIRAI」を発表。FCEV普及を後押しするため、家庭用燃料電池(エネファーム)や水素ステーションの拡充など様々な施策を練ってきた。

水素をエンジン気筒内で直接燃焼する「カローラ」をベースとしたレーシングモデル(写真:筆者撮影)

 また、直近では国内モータースポーツのスーパー耐久シリーズに水素をエンジン気筒内で直接燃焼する「カローラ」をベースとしたレーシングモデルを投入。豊田章男会長が自らハンドルを握りレースに参戦していることが、世の中に広く知られるようになっている。

 このレーシングモデルでは、気体の水素のほか、より効率的に水素を運搬できる液体水素を使う方法などについて実証実験を続けている状況だ。

 こうした次世代技術開発とマーケティングを上手く組み合わせた水素事業戦略では、グローバルで見てトヨタが他の自動車メーカーを一歩リードしている印象がある。

 欧州では地政学的かつ政治的な側面から水素戦略を強化する動きがあり、トヨタはBMWと燃料電池車での量産に向けた関係強化を発表している。

 一方で、トヨタが2023年6月に静岡県の東富士研究所で実施した、報道陣向けの次世代技術に関するワークショップの中で、トヨタの技術領域を統括する中嶋裕樹副社長は「今後、B2B(事業者間ビジネス)を強化する」と宣言した。そこでは、燃料電池など水素関連機器やシステムの産業用向け外販の重要性を指摘している。

水素カートリッジを用いた、キッチンシステム(写真:筆者撮影)
水素カートリッジを用いた燃料電池の発電システム(写真:筆者撮影)

 また、ホンダも燃料電池の外販を強化するとの姿勢を示していることもあり、筆者を含めた報道関係者の間では「FCEVの個人向け普及は伸び悩んでおり、水素関連でのB2C(個人向けビジネス)の将来性が見えてこない」という印象があった。

 そうした中で、「水素カートリッジ」はトヨタがこれまで蓄積した知見により、水素利用に関する安全性や利便性を「見える化したカタチ」であり、B2Cを含めた「水素社会実現に向けた次の一歩」ではないだろうか。

「ハイドロジェン・クッキング」で実際に水素を燃やしてお湯を沸かす様子を見ながら、そう感じた。

 トヨタは、この技術に関してスタートアップ企業との連携を模索しているところだ。

 例えば、トヨタとしてはガス事業者に発注して発送や引き取りを行うことを想定しているが、そうした商流を作るうえで新しいアイデアをスタートアップ企業に期待している。

水素カートリッジの内部構造の展示(写真:筆者撮影)

 次に、「スイープ発電システム」だが、こちらもトヨタとしては基本的な技術の研究開発を量産レベルに引き上げている段階であり、実際のサービスについてはスタートアップ企業との連携を求めている。