EV用電池を「分散型電源」システムにリサイクル

 スイープ発電システムとは、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV(電気自動車)などの使用済みリチウムイオン電池を回収して、300kWh程度の蓄電システムにリサイクルしたものだ。

スイープ蓄電システムのイメージ展示(写真:筆者撮影)

 技術的な注目点は、そもそも設計思想が違うハイブリッド車用とEV用のリチウムイオン電池を同じシステムに組み込むこと、さらにはそれぞれの電池の劣化の度合いが違っても電気回路を調整することで、それぞれの電池のパフォーマンスを有効活用することにある。

 また、システム全体の構成を簡素化することで、エネルギーロスを少なくし、さらなるコスト削減を目指している。

 トヨタの開発者は、取り外した電池だけではなく、車載されたままV2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)で充放電されている電池でも、大きなくくりとしてスイープ蓄電システムを構築することは理論上、可能だと説明する。

 理想的には、こうしたシステムが国や地域全体でつながることで、電動車を分散型電源として有効活用することができる。

 ただし、筆者の私見としては、実際に事業化するとなると、さまざまなハードルがあり、ビジネスモデルを描くことが難しいことも考えられる。

 例えば、既存電力の系統との連携において、電力事業者間での電力の買い取り価格に大きな差があったり、地域によっては再生可能エネルギーの供給量が過多であるため系統との連携を抑制していたりする場合があるからだ。

 こうしたビジネス面での課題解決に向けては、まさにスタートアップ企業などさまざまなパートナー企業との連携が期待されるところだ。

 トヨタの佐藤恒治社長も、直近の通期決算報告の場で、次の10年を念頭に置いて事業のイメージを説明したが、その中で新車販売後のいわゆるバリューチェーンの変革の必要性を強調していた。

 今回トヨタが公開した、「水素カートリッジ」と「スイープ蓄電システム」は、まさにバリューチェーン変革に向けた大きな一歩だ。

桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
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