(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年9月19日付)

アリゾナ州のメキシコ国境を訪れたトランプ氏(8月22日、写真:AP/アフロ)

 米国では、まさに猫と犬が降ると言われるような大騒ぎになっている。

 オハイオ州スプリングフィールドで移民がペットを食べているという作り話が怒涛のようなミームを生み出した。

 初期の例では、ドナルド・トランプが子猫とカモを抱きしめている様子が描かれていた。

 こうしたミームはすぐに、主張のバカバカしさを笑うミームの洪水にのみ込まれた。

 このポストモダンバージョンの「血の中傷」(ユダヤ人がキリスト教徒の子の血を儀式に使ったとするデマ)に差し込む一筋の光は、ユーモアが今も効果的なツールだということだ。

反移民レトリックに隠された賭け

 ただし、その水面下には、米国政治の巨大なうねりが潜んでいる。

 トランプは不法移民を攻撃することで2016年の大統領選のキャンペーンの火ぶたを切った。

 これを徐々に広げ、不適切な文化からやって来た合法的な移民も攻撃対象に含めるようになった。

 トランプがかつて「肥だめ」と呼んだハイチからの難民は狙いやすいターゲットだ。

 スプリングフィールドにいる2万人ほどのハイチ人の大半は合法的に米国に滞在しているが、短期間で移住してきたからだ。

 このペットを食べる怪物のデマにふけることによって、トランプが票を失うと考えるのは容易だ。

 だが、この暗いレトリックには計算された賭けが隠されている。

 トランプの最初の選挙キャンペーンは連邦政府の無能さに基づいていた。米国は南部の国境を取り締まることで法の支配を守らなければならないとトランプは言った。

 修正された主張は、米国の伝承を部外者から守らなければならないという内容だ。

 たとえ合法的な移民であっても、望まれないよそ者から米国の文化を守る必要があるというわけだ。