前侍ジャパン指揮官・栗山英樹。ファイターズの監督になる以前、解説者として活躍そしていたが、選手としては長くプレーできなかった。

 挫けそうな日々が続くプロ野球人生。そんな中で、現在に至るまで心に残る金言があった。

 総ページ848。「大谷翔平はやっぱりすごい。でもこれだけの人が彼を生かしたんだと思うと感動を覚えました(40代・男性)」などと、大きな反響を呼んでいる栗山英樹氏の新刊『監督の財産』からその金言を紹介する。清宮幸太郎を見て思い出したその瞬間とは――。

メジャーにない日本プロ野球の長所

(『監督の財産』収録「6 稚心を去る」より。執筆は2018年11月)

 監督として2年目の開幕を迎えた直後、恩師の訃報に触れた。

 尽きることない感謝の思い、忘れ得ぬエピソードは拙著『覚悟』『伝
える。』(本書「2・覚悟」「3・伝える。」)でも紹介させてもらっている。

 それを上梓してまもなく、恩師は旅立たれた。

 大学を出て、22歳でスワローズに入団したものの、プロのレベルにまったくついていけず苦悩していたとき、目をかけてくれた人がいた。内藤博文二軍監督である。

 ジャイアンツにテスト生第一号として入団し、そこからレギュラーにまでなった内藤さんは、同じようにテストで入団してきた出来の悪い新人に、とことん向き合ってくれた。その支えがなければ、きっと1 、2年でクビになっていたばずだ。

 一番苦しかった時期、内藤さんにかけられたひと言が忘れられない。

「ひとと比べるな」

「プロ野球は競争社会だ。だが、そんなことはどうでもいい。おまえが人としてどれだけ大きくなれるかのほうがよっぽど大事だ。だから、周りがどうあろうと関係ない。明日おまえが、今日よりほんのちょっとでもうまくなっていてくれたら、オレはそれで満足だ」と。

 本当にありがたかった。

 内藤さんは決して才能を比較することはせず、半歩ずつでも前に進むことに意味があると教えてくれた。10個エラーしてもいい、明日9個になればいい、そう思えるようになって、ようやくまた野球が楽しくなった。

「ほんのちょっとでもいいから一軍に行ってみようや。いいところだぞ」