「固定資産税」の導入はこれまでも議論

 そもそも基金が設立される2004年以前の住宅には、修繕資金がない。さらに2004年以降の住宅についても、当時の住宅の価格がまだ低く、同時に徴収してプールした基金では今の物価の修理費が賄えない、という問題も起きている。北京では2004年当時、商業住宅の価格でも4000元〜8000元/平方メートル程度だった。今の北京の住宅価格は3万7000元/平方メートル以上する。

 一部小区では、基金の残高が必要の3分の1に満たないほど不足し、基金の存続自体が困難になっているという。だからこそ、住宅建設部としては、従来の特別住宅維修基金のかわりになるような新たなシステムを構築していきたい、ということらしい。

 だが、まず心配されていることは、地方政府に資金力がないことだ。地方財政の最大の収入源である土地の譲渡収入は今の不動産景気低迷でますます萎縮している。

 中国財政部が8月26日に発表した統計によれば、7月の全国の財政収入は前年比1.9%減で、土地譲渡収入に関して言えば40.3%減になっている。1〜7月の地方政府の国有土地使用権の譲渡収入はわずか1兆7763億元で前年比22.3%減少したという。土地譲渡金を住宅年金用の公的資金に充てる、という主張は説得力がない。

 ロンドンのコンサルティング企業、ペンション・マクロエコノミックコンサルティングのシニア・チャイナ・エコノミスト、ケビン・ラム氏がボイス・オブ・アメリカにコメントしたところによれば、住宅市場が今後さらに暴落していけば、インフラの維持のための資金調達として、消費税を割り当てたりする可能性も指摘している。

 固定資産税に関しては、これまで何度も導入は検討されてきた。国務院は1986年に『中華人民共和国固定資産税暫定条例』を公布。だが、実際には導入されなかった。

 2003年第16期中央委員会三中全会で、「条件が整えば、統一的かつ標準化された固定資産税(物業税)を不動産に課税する」ことが提案されたが、やはり実施されなかった。2013年末、第18期中央委員会三中全会でも「不動産税に関する法整備を加速し、改革を適切に推進する」ことが提案され、「固定資産税(房産税)」から「不動産税(房地産税)」といった呼び方に変更された。

 2020年10月、中国共産党中央委員会第19期第5回全体会議で採択された「第14次5カ年計画」および「2035年遠景目標要綱」には、「不動産税に関する法制化の推進」が優先事項の1つとして明記された。2021年、第13期全国人民代表大会常務委員会第31回会議は、国務院に対し、一部の地域で5年間、試験的に不動産税改革を実施する権限を与えることを決定し、実施開始時期は国務院が決定するとした。

 だが、そこまで議論し検討しても固定資産税導入は実現していない。理由は不動産業界の抵抗が強いこと。そして中国の土地は全て公有制で、住宅の建っている土地は住宅オーナーの所有権がないことも大きな障害となっている。

 土地の使用権を年限を切ってデベロッパーに譲渡されているにすぎず、その期限はだいたい70年。つまり開発から70年過ぎれば、必ずしも住宅は個人の固定資産と言い切れない。そういう状況で固定資産税を徴収すること自体に世論は矛盾を感じて抵抗する。

 なので、固定資産税ではなく、住宅所有者から保険料のような形で資金を徴収し、社区の整備費用にあてようとしているのではないか、と推測されるのだ。