和食文化に欠かせない昆布の生産量を復活させる取り組み

 こうした現状に、北海道水産経営課は「ICT技術等を活用したコンブ生産増大対策」という取り組みに乗り出した。

 近年の海洋環境の変化で漁場の変化が著しいことから、ドローンの空撮画像から昆布漁場を把握する画像解析技術による漁場管理や、水揚げから製品出荷までの生産工程の見直し、AI技術を活用して一連の作業工程を自動化することで、省力・省人化、機械化、分業化による生産性の効率化を目指している。

 昆布製品製造企業のフジッコは、水揚げした生昆布を乾燥させずに真昆布として出荷するという工程に転換する取り組みを始め、生産者の労働負担を大幅に減少させた。

 こうした地道な取り組みにより北の海に昆布の森を復活させ、作業工程の簡略化で労働者の現場離れを防ぐ。本格的な回復は気が遠くなりそうなほど時間がかかるかもしれない。

 北海道大学の研究では、温暖化で近海コンブは2090年代には消滅するという報告もある。出汁文化の大阪では天然真昆布の生産量激減で昆布文化の衰退が危惧されている。

 昆布不漁の影響は北海道から2000km以上離れた沖縄県にも及んでいる。

 歴史的に見ると、江戸時代に薩摩藩経由で当時の琉球に昆布が渡り、琉球から清に献上されていた。その影響で沖縄の郷土料理には昆布を使ったものが多い。千切りした昆布と豚肉、ニンジンを炒めたクーブイリチー、昆布巻き(クーブマチ)、刻み昆布と野菜の煮物、ジューシー(炊き込みご飯)など。

 沖縄の地元テレビ局は「今年の分は在庫があり足りているが、来年のお正月や旧盆に安定的な供給ができるか見通しが立たない状況」と伝えている。

 昆布は決して食卓の主役ではない。しかし、その味わいはユネスコ無形文化遺産に登録された和食文化に欠かせないものである。日本の文献に初めて登場したのは797年に完成した『続日本書紀』の霊亀元年(715年)とされている。

 高級店だけでなく、庶民の身近な存在としておにぎりの具材、出汁、昆布締め、千枚漬け、佃煮など幅広く利用され、当たり前の存在であり続けてきた昆布が、この先、入手が困難になってしまう事態が訪れるのだろうのか。

 すでに天然昆布は最悪の状況にある。官民一体で知恵を出し合って和食文化の肝である昆布の生産量を復活させていきたいものである。

【山田 稔(やまだ・みのる)】
ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。