「アイコニックSP」に透けるマツダの戦略

「市場の声」はマツダが想定している以上に大きかった。

 ここでいう市場とは、グローバルにおけるマツダ車のユーザーと、マツダ車を販売する企業、さらにマツダ車向け部品製造などのサプライヤーである。

「デザインにこだわるマツダらしい」「単純にかっこいい」といった、実車に対する直感的な感想が多かった。

 むろん、「マツダらしさ」の基盤として、高性能スポーツカーに見合うロータリーエンジンのパッケージが必須という期待が「市場の声」の主流だった。

 これを受けて、1月開催の東京オートサロンでマツダの毛籠勝弘社長は、ロータリーエンジンの開発を拡充させることを明らかにした。

1月の東京オートサロンでのマツダ毛籠社長が会見する様子(写真:筆者撮影)

 ただし、「RX-9」の量産が確定したかどうかについては言い切らなかった。

 4月になると、2024年度入社式に白いボディのアイコニックSPが登場した。

 新入社員にとって、このクルマが、まさにマツダという企業のシンボルという印象を持ったに違いない。現時点で言えるのは、この白ボディと、ジャパンモビリティショーや筆者が8月末に広島本社で見た赤ボディ、少なくとも2つのアイコニックSPが存在するということだ。

 そして5月末、トヨタ自動車、マツダ、スバルの3社共同で報道陣向けに開催した「マルチパスウェイに関する説明会」で、マツダはアイコニックSPの中身という想定で、「RX-9」向けに量産が期待される、ロータリーエンジンユニットを世界初公開した。

 公開されたロータリーエンジンユニットは2種類ある。

5月末に都内で公開された、FR用ツインローター型ロータリーの発電ユニット(写真:筆者撮影)

 ひとつは、MX-30 R-EV搭載モデルとは違う、よりコンパクトになったFF(前輪駆動車)用のシングルローター。もうひとつが、FR(後輪駆動車)用のツインローターだ。

 発表の際、廣瀬一郎専務に筆者が直接確認したところ、ツインローターは「8C」を2つ使った方式。当面の間、ロータリーエンジンは「8C」を基本ユニットとして研究開発を進めると言い切った。

 これら2つのロータリーエンジンユニットは、あくまでも発電機であり、つまり駆動ユニットとしてはEVを前提としている。そうなれば、前輪をモーター駆動する四駆EVという発想も可能となるが、ロードスターやRX-7でのマツダ車のイメージからすると、私見ではFRが妥当という印象がある。

 その他の機会でも、マツダ幹部と意見交換をしている限り、アイコニックSPをイメージする、RX-9に相当するクルマの近年中の量産について、これまでの流れに後戻りするような発言は聞かれない。

 その上で、本当にいまのマツダにとって、そしてこれからのマツダにとって、RX-9は必要なのだろうか?