自分に合ったヒントをもらったとき、人は変わる
そうやって突き詰めて考えていくと、よく言われるコーチングの鉄則にふと疑問を抱くようになった。
「人には褒められて伸びるタイプと、怒られて伸びるタイプがいる」というやつだ。あれには最近、大いに疑問を持っている。
一人ひとり置かれている状況によって、ときには褒めたり、ときには怒ったりしないとダメで、結局どちらも必要なんだと思う。
全体的な印象で言うと、最近の若者は結果が出ていないときにあまり怒られるとダメになる傾向が強いかもしれない。どうせ怒るなら、結果が出てからにしたほうがいい。
それから、選手への技術指導に関しても、常々思っていることがある。
こう言うと誤解を招くかもしれないが、選手は指導によって伸びるのではなく、自分でうまくなるんだと思う。
一流になる選手は、自分に必要なものとそうじゃないものを的確に見分けている。そして腑ふに落ちないものは捨て、必要なものだけを取り入れてうまくなる。彼らは賢い。
「選手にとっていい監督とは、自分を使ってくれる監督」という言葉があるが、それにならっていえば、「選手にとっていいコーチとは、自分に合ったヒントをくれるコーチ」なのかもしれない。自分に合ったヒントをもらったとき、選手は変わる。
(『監督の財産』収録「4 未徹在」より。執筆は2015年11月)