日本においてアスリートの価値は知名度と大きく関係する。マネジメントからすると「実力と釣り合っていない」――こんなにいい選手、実力もあるのに、なぜもっと知ってもらえないのだろうか――と思うことも多い。

 ただ、そこで何をするかがマネジメントの仕事だ。

 先日、WBC世界バンタム級王者として初防衛を果たした中谷潤人。彼の実力、功績をもっていかにその魅力を伝えていくか――。

 元メジャーリーガー・上原浩治などのマネジメントを行うスポーツバックス代表取締役・澤井芳信がスポーツマネジメント業界の意義を考える本連載。

 第八回となる今回は、マネジメント「価値あるものの価値創造」について。

日本人WBC世界バンタム級王者初防衛の裏側

 その目には闘志が宿っていた。緊迫した控え室の雰囲気を初めて味わった。

 7月20日、東京・両国国技館で行われたボクシングのWBC世界バンタム級王者、中谷潤人選手(M.T)の初防衛戦。この試合で、中谷選手は同級1位ビンセント・アストロラビオ(フィリピン)に1回2分37秒でKO勝ちした。試合を決めたのは強烈な左ボディーストレート。圧巻のKO劇だった。

 中谷選手とは今年、スポーツバックスとは初となる、プロボクサーとマネジメント契約を結んだ。

 今回の一戦を前に、アメリカ・ロサンゼルスで行われた合宿では、旅程を手配するとともに、ボディケアを担当するトレーナーを派遣。計量をパスした後にはおすすめの食事、お店を紹介した。大事な一戦に向けて重要な栄養補給だ。

 控え室から闘いのリングへ向かう直前、中谷選手はサポートメンバーと拳をぶつけていく。その中の一人に加えさせてもらい、鳥肌が立った。

 これまでスポーツマネジメント業界の難しさや特殊性などについて言及してきたが、反面にあるやりがい、素晴らしさはこういう瞬間だろう。

 アスリートたちが本気で勝負をしに行く、その姿を間近で見るのはテレビなどを通してみたものとは、別格の迫力があるのだ。