同じモノを同じ材料で同じようにつくれば安く作れる。交換可能な製品を大量生産することで、市場を拡大できる。今では当たり前の資本主義の原理を工業の世界に持ち込んだのがヘンリーなのだ。

 ヘンリーの取り組みは目に見える形で世界を変えた。製品や作業の標準化の効果は大きかった。自動車一台をつくるのに業界標準で約20日かかっていたが、フォード社はわずか4日で完成できるようにした。

1912年ごろ、息子エドセルとともにT型フォードに乗り込みハンドルを握るヘンリー・フォード (写真:Mary Evans Picture Library/アフロ)
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組み立てライン導入で衝撃の「価格破壊」

 当然、同じモデルを同じ部品で大量につくるので、価格も引き下がる。手づくりの車は1500ドル前後だったが、1908年にT型フォードを世に送り出したときの値段は約半額の850ドルだった。これだけでも画期的だがフォードは満足していなかった。フォードは馬車の値段(約400ドル)を想定していたからだ。

 有言実行で、翌年には609ドルまで値下げされ、1924年には290ドルまで引き下げた。同じモデルを同じ部品を使って大量につくることを繰り返すことで作業も標準化された。効率良く生産する術が確立され、さらに安くつくれる良い循環が生まれたのだ。発売年の1908年に9%だった市場シェアは1921年には61%にまで拡大した。

1920年代、ミシガン州ハイランドパークのフォードの工場におけるT型フォードの組み立ての様子。組み立てラインによる製造方法はその後の全ての製造業に大きな影響を与えた(写真:Science Source/アフロ)
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 ヘンリーの「教科書的」な功績の紹介はここらで終わっているケースが大半だろう。だが、人生は長い。