多くの企業が苦境に陥っている。その原因は果たして、米国発の金融危機を契機とする世界的な大不況だけにあるのだろうか。それだけではないことに経営者は気付き始めているが、ではどう対処すればいいのだろうか。
苦境を経済環境のせいにしていないか?
金融危機と世界的な大不況は、確かに経営に深刻な打撃を及ぼしている。しかし苦境の原因はそれだけなのか。むしろ、これまでの経営に根本的なところで問題があり、それが不況というきっかけで噴出したのではないか。そうだとすれば苦境を不況のせいにして景気回復を待っていても、問題は本質的には何も解決しないことになる。
私は、経済危機の真の原因は、金融市場の混乱という外部要因ではなく、むしろビジネスにおける「働く人の心」と「数字」の乖離にあるのではないかと思う。もしこの仮説が正しければ、ビジネスにおける心と数字の問題に真剣に向き合うことで、危機に翻弄されることなくきちんとした処方箋が書けるはずだ。
そこで、このコラムでは、ビジネスにおける心と数字の問題について、とりわけ会計的な観点から深く考えてみたい。
企業の中で会計というと、数字で社員を縛り短期的利益を求めて走らせる、というようなイメージを抱きやすいが、本来の会計とはそうではない。会計の目的と特質と限界を正しく理解し、社員の心と数字の乖離を是正する努力をすることが、企業の競争力を高め、社員のモチベーションを上げ、企業の永続的発展を促すことにつながるのだ。
ビジネスではなぜ「心」が軽視されるのか
ビジネスにおいて、「心」や「精神」が抽象的・主観的なものとして軽視されているのは残念なことである。
ビジネスの現場で日々奮闘されている人たちにとって、社員の心のあり方次第でビジネスが大きく左右されることは、当然の事実として強く実感しているはずだ。
鬱病やメンタルヘルスといった問題への対処だけでなく、社員がどれだけ企業理念に共感し、高い意識を持ち、仲間や顧客に対して感謝と愛情の念を持って働くかが、ビジネス上の成果に大きな影響を与えるということは、多くの事例が示している真実である。
しかし現場を知らないコンサルタントや経営学者、さらには数字ばかりを重視する一部のマネジメント層は、心の問題に正面から向き合おうとせず、ロジカルに正しいことを推し進めようとする。企業の利益の源泉は人の心であり、人の心はロジカルに動くはずがないのは自明であるはずなのに、あたかも人の心の問題は自分の範疇ではないと言わんばかりの施策を打ち出してくる。