ポジティブ思考ばかりが有益とは限らない?(写真:FrankHH/Shutterstock)

「ポジティブ思考」がもてはやされる中、あえて異を唱えるのが『ネガティブクリエイティブ つまらない人間こそおもしろいを生みだせる』(扶桑社)というビジネス書だ。著者は、映像作家・クリエイティブディレクターの藤井亮氏。芸術家・岡本太郎の世界観をもとにした架空の昭和特撮ヒーローが登場するテレビドラマ『TAROMAN』(NHK Eテレ)を手掛けるなど、遊び心のある数々のコンテンツを生み出した人物だ。クリエイティブの世界を生き抜いてきた藤井氏は、本書でネガティブ思考を逆手に取った仕事術と創作論を解説している。

(東野 望:フリーライター)

プレゼン下手こそ、プレゼンの勝者

 藤井氏の挙げる「ネガティブ」が役に立つ例を見てみよう。

 次のうち成果物のクオリティが上がるのは次のどちらだろうか? 

・会場の爆笑をさらうようなプレゼン上手なポジティブ人間が通した企画
・ボソボソと平板な調子で淡々と話すようなプレゼン下手なネガティブ人間が通した企画

 前者だと答えたくなるが、自称・プレゼン下手な藤井氏の考えは異なっている。

プレゼンは「俺のおもしろさをアピールする演説の場」ではありません。あくまで課題解決のために、自分がどのように考えたのか、企画のロジックをまじめに説明すること。

 プレゼン下手な人間が通した企画は、“拙いプレゼンでも通るくらい”内容を推敲しているはずだ。逆に、プレゼンが上手すぎる人は「そこそこの企画」であってもそのプレゼン力で通せてしまうが、その分見切り発車で企画を進行しがちで、後々、自分が後悔することになってしまうという。

ネガティブ思考をポジティブに評価する藤井氏が生み出したタローマン。オフィシャルファンブック『タローマン・クロニクル』(藤井亮(豪勢スタジオ)・NHK「TAROMAN」制作班著、玄光社)の表紙より

ネガティブな感覚で人を惹きつける

“タイムパフォーマンス(タイパ)”が重視される現代では、TikTokなどのショート動画が流行し、アーティストの楽曲も「サビはじまり」の曲が増えている。

 藤井氏も広告映像の意味を理解してもらうのに数秒かかっていては遅いと考え、ブラウン管テレビのような荒れた画質やモノクロフィルムなどを使って「違和感」や「異物感」というネガティブな感覚を演出することで、初見での強い印象づけを狙った。この藤井氏のテクニックは、映像制作に限らずビジネスシーンでも活用できそうだ。

企画書の最初の1行でも、プレゼンの冒頭でも使える考え方です。まず最初の3秒で人を引き込むことを考えてみてください。