その一方で、中国は沈黙を守っている。中国は大統領選挙の結果にかかわらず、今後、米国が中国に対してより強硬な態度で出てくることを想定している。そんな中国は、ロシアはもちろんのこと、ベトナムも味方に引き入れておきたい。そう思うから、あからさまにロシアと接近するなとは言えない。今回のプーチンのベトナム訪問を最も面白くなく思っているのは中国だろう。

安全保障は重要だが経済も重要

 ベトナムは細心の注意を払って全方位外交を行っている。それは一見成功しているようにも見える。しかし、前回、マキャベリが「中立を保つと最終的には滅ぼされる危険がある」と言ったことを紹介したが、それはベトナムにも当てはまる可能性がある。

 現在、ベトナムは不動産バブルが崩壊して経済が順調に成長しなくなっている。今後、不動産バブルの崩壊が金融システムに波及することになれば、IMF(国際通貨基金)に資金援助を要請する場面も訪れよう。しかしIMFを仕切っている米国との関係が良好でなければ、IMFがベトナムの金融システムを全力で支えることはない。

 ベトナムは歴史の中での中国との戦争や近年のベトナム戦争の経験から、外交の中心に安全保障を置きすぎるきらいがある。安全保障が重要であることは論をまたないが、現代においては経済も重要である。経済が崩壊すれば、安全保障にも影響する。現在のベトナム指導部にはこの感覚が欠如している。

 米国の反対を押し切ってプーチンを招いたことが吉と出るか凶と出るか、それはベトナム経済の今後にかかっている。