【紀伊日ノ御埼灯台】空襲を受けた初代跡地がいまでも森の中にひっそりと
紀伊日ノ御埼灯台(きいひのみさきとうだい、和歌山県日高町)は、2017年3月に建てられた、新しくてピカピカの灯台です。八角形の灯塔は、石造を思わせる模様が刻まれていて、シンプルな形ながらもしゃれた雰囲気を持っています。
さらに紀伊水道が目の前に広がっていて、風景もバツグンです。
ただ、自動車道のすぐ脇にあるので、秘境感はありません。クエスト感が味わえるのは、これではなく初代の灯台跡です。
紀伊日ノ御埼灯台は初代、2代目、3代目と場所を変えながら建て直された、苦難の歴史を持つ灯台なのです。
3代目灯台の前の道を少し進むと、閉所された防衛省施設のところで行き止まりになります。ここに初代灯台跡への入口があります。
案内板には初代灯台の歴史が書いてあります。1945年(昭和20年)に2度の空襲を受け、炎上崩壊したそうです。
森の中の下り道は、傾斜は急ですが、まあまあはっきりしています。1カ所だけ、右か左か迷うところがありますが。
10分ぐらいで、レンガ塀に囲まれた初代灯台跡に到着しました。
敷地は割と広く、灯台だけでなく、官舎(退息所と呼ぶ)もここにあったと思われます。初代が初めて点灯したのは1895年(明治28年)。そのころは灯台守が灯台近くの官舎に住んで、24時間灯台の管理作業を行っていたのです。
炎上したという灯台の残骸のようなものは見当たりませんが、瓦や陶器の破片はかなり散らばっていました。
灯台が崩壊した1945年から80年近くが経ちました。木の陰になっているせいか、草がほとんど生えていませんが、陰湿な感じはありません。それほど苦もなく歩き回れて、当時の様子が少しうかがえます。
跡形もなく撤去されるのでもなく、森や草に飲み込まれてしまうのでもなく、ゆっくりと時間を刻んでいる、珍しい場所だと思います。
ちなみに2代目灯台は、現在の3代目灯台よりさらに少し高いところにありました。ところが近年地すべりが起きて、近くの県道が崩れ、その上にあった2代目灯台の敷地も危険な状態になってしまったのです。
敷地に問題が起こったため、別の場所に新たに3代目灯台を作らざるを得なかったわけです。
初代跡、2代目跡、3代目と巡ることによって、灯台の深い歴史とクエスト感を味わうことができるでしょう。