【NHK『虎に翼』(月~金曜午前8時)】

『虎に翼』番組サイトより

 主題歌とアニメのオープニング映像も含めて、他を圧倒している。脚本、出演陣の演技、演出のいずれも出色だ。

 脚本のテーマは性別や人種、身分などによる不平等を禁じた憲法第14条。おそらく嫌いな人はいない条文だが、一方で遵守されているとは到底言えない。それなのにヒロインの猪爪寅子(現姓・佐田=伊藤沙莉)たちはこの憲法の施行前だった戦前から平等を実現させようと奮闘している。だから痛快だ。

 1931年だった第1回、女学校の最終学年だった寅子は母親・はる(石田ゆり子)から見合い結婚を強く勧められる。だが、気乗りしない。

「女の幸せが結婚と決めつけていることに納得がいかないのかもしれない」

 法律家の道を歩むことを決意し、明律大法学部を卒業。晴れて超難関の高等試験司法科(現・司法試験)に合格する。それでも笑顔にはなれなかった。同じ高等試験に合格しようが、女性は検事と裁判官にはなれなかったからである。

 裁判官・桂場等一郎(松山ケンイチ)から「同じ成績の男と女がいれば男を採る。それは至極まっとうなことだ」と言い放たれたことも背景にあった。

 大学が開いてくれた祝宴の記者会見でこう主張する。1938年、第30回だった。

「男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います。いや、みんなでしませんか? しましょうよ」

 このドラマに力があるのは過去を振り返るように見せながら、現代性のあるメッセージが散りばめられているからだ。「世界男女格差報告書」の2023年版によると、日本のジェンダーギャップ指数は125位でG7(先進7カ国)の中で最下位。後進国並みだ。政界や経済界などにおいて平等化が著しく遅れている。

 本作が不平等への反意を唱えているのは性別の問題ばかりではない。寅子と明律大法学部の同級生で貧農出身の山田よね(土居志央梨)、3人の子どもの母親・大庭梅子(平岩紙)、朝鮮からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)、華族令嬢・桜川涼子(桜井ユキ)も対等。上下関係も垣根もない。

 涼子の付き人の玉(羽瀬川なぎ)も仲間。5人の勉強会にも迎え入れられた。1937年だった第37回、兄・崔潤哲(ソンモ)が思想犯の疑いがかけられたため、香淑が特別高等警察(特高)の捜査員に詰問されたとき、玉は目に激しい怒りを溜めた。

 この回、玉が辞書を片手に読んでいた洋書が一瞬映った。それは『Uncle Tom's Cabin(アンクル・トムの小屋)』。キリスト教徒の黒人奴隷・トムの悲惨な生涯を描くことにより、人種差別に強く抗議した小説である。細部まで隙がない作品だ。

 またテーマは硬派だが、ユーモアがふんだんに交えられているから、観ていて肩が凝らない。寅子の夫となった佐田優三(仲野大賀)のお腹が緩いエピソード、結婚相手の優三の寝床にゴロゴロと転がりながら入っていく寅子の姿。毎回のように笑わせてくれる。伊藤沙莉のコメディエンヌとしての豊かな才能が最大限に生かされている。

*****

 9月まで続く『虎に翼』を除き、いずれのドラマも物語が大詰めに入りつつあるが、いまから視聴し始めても十分ストーリーに着いていける。好みの作品を見つけて楽しんでもらいたい。

【高堀冬彦】
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

■著者のその他の記事
好調キープの『虎に翼』、中高年はもちろんZ世代まで惹きつける「作品力」(2024.4.27)
『虎に翼』に漂う名作ドラマの予感、寅子のモデル「三淵嘉子」の人生も感動的だった(2024.4.9)
『不適切にもほどがある!』最後の最後まで視聴者を魅了したクドカンの才能と仕掛け(2024.4.5)
まさに神回、『不適切にもほどがある!』第8回のすさまじい切れ味、SNSと世間の空疎な“共犯関係”を痛烈批判(2024.3.18)
『不適切にもほどがある!』はなぜ心に刺さるのか、その理由をあえて分析する(2024.3.11)
「事実無根」を主張する松本人志がなぜ芸能活動を休止するのか、背景には万博(2024.1.16)