夫婦のかたちは多々あれど、現在の日本では一夫一婦制がマジョリティーである。とはいえ、世の中はそれですっきり万事解決するわけではない。テレビ朝日系で2024年1月から3月まで放送され大きな話題を呼んだ「離婚しない男 -サレ夫と悪嫁の騙し愛-」ほどではなくとも、婚姻カップルの間に第三者が入り込み、痴情のもつれに発展することもある。
世界を見渡すと、人間以外でも一夫一婦制の動物はいる。その中でも、クチキゴキブリは不思議な特徴を持つ。オスとメスでペアになると、互いの翅(はね)を食い合うのだ。翅がなくなるのだから、その後は飛ぶことはできない。つがった後は生涯連れ添って、交尾と子育てを繰り返す。
クチキゴキブリの翅の食い合いにはどのような意義があるのか、クチキゴキブリ研究を発展させることで見えてくるものは何か──。『ゴキブリ・マイウェイ』(山と渓谷社)を上梓した大崎遥花氏(ノースカロライナ州立大学・京都大学、理学博士)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
※本文にはゴキブリに関する記述が多数出てきます。苦手な方はお控えください
──卒論から現在に至るまで、クチキゴキブリを研究対象としているそうですが、これはどのようなゴキブリなのでしょうか。
大崎:その名の通り、朽木の中に棲息しているゴキブリです。害虫ではありません。歩くのが遅い、飛べなくなる、脚も短い、触角も短い。もはやゴキブリの要素を全く持っていないと言っても過言ではないゴキブリ目の生き物です。
「クチキゴキブリの翅(はね)の食い合い」が私の研究テーマです。クチキゴキブリはオスとメスで互いの翅を食べ合った後に、鳥のように両親で子育てをします。翅の食い合いをした相手同士でつがい、生涯にわたり何回も交尾、出産、子育てを繰り返します。
翅の食い合いは、昆虫のみならず、生物全体でもクチキゴキブリでしか見つかっておらず、非常に珍しい行動です。
──ゴキブリ研究は中学時代からだそうですが、当時はどういった研究をしていたのですか。
大崎:自分の興味のあることを研究して発表しましょう、という総合的な学習の授業があり、虫好きの私は当たり前のように虫の研究をしようと思いました。
そのときに理科の先生に相談したところ、マダガスカルオオゴキブリを購入してくれたんです。これが、私のゴキブリ研究人生のスタートでした。
マダガスカルオオゴキブリは大きくて分厚いゴキブリです。狭いところに入れたらどうなるのか気になり、0.5センチ、1.0センチ、1.5センチ……と幅を刻んで道をつくり、歩かせては観察していました。残念ながら、結果は良く覚えていません(笑)。
今もそうですが、私の興味の対象は昆虫の「行動」です。
私が卒業論文から研究を続けている「クチキゴキブリの翅の食い合い」は、学術分野で言うと「行動生態学」に相当します。行動生態学は、動物の行動の意味を進化の観点から解き明かしていく学問です。幼少期から生きている虫を見るのが好きだったので、私の行動生態学への道は、まさに三つ子の魂百までといったところです。
──マダガスカルオオゴキブリの行動で印象に残っていることはありますか。