本稿を執筆している4月27日早朝時点で円・ドルのレートは157円台まで下がっており、すでに報道されている通り「円安」を通り越して「円弱」とまで表現されています。
さらには「日本は後進国へ転落」といった記事までリリースされる始末で、まさに「亡国」の状況と言わざるを得ません。
ここまで日本を骨抜きにしたのは誰か?
直接の「戦犯」は「アベノミクス」こと、2010年代に自民党政権が長期継続した中身のない愚策が「実行犯」です。
しかし、現実はそんなに簡単なものではなく、「失われた」30年に及ぶまともな政策の欠如、またとりわけイノベーションの不在~軽視から、イノベーションを支える人材育成、教育の破壊など、積もりに積もった愚挙のなれの果てで、雪崩が起きつつあると理解すべきでしょう。
本連載は別媒体「日経ビジネスオンライン」で経済時評『常識の源流探訪』としてスタートしたルーツがあります。
そこで、この国難を前に「円弱の源流」の一筋を記すとともに、私たちは未来に向けて何をなすべきか、検討したいと思います。
人気取りとイメージに終始した失われた30年
一般に「アベノミクス」と呼ばれる政策が、完全に無内容な失策であったことは、すでにあらゆる媒体で論じられている通りです。ここでは多くを繰り返しません。
端的に言えば「円安政策」に尽き、金融緩和で円を安くし、これに伴って株価は見かけ上上がりますが、それ以上の効果は何もない。
金融が健康な状態での「株価」は、本質的に企業の将来の成長を反映する指標であるはずのもの。つまり、未来の成長を担保する資産価値と見なすことができます。
株価が健全に維持されるためには、政策的に本質的な成長戦略が大本にあることが必要です。つまり「育てる資本主義」が必須不可欠です。
これにより実体経済の地味が豊かになり、それと並行して株価が上がるのが、まともな資産経済のありかたです。
近年の世界に目を投じれば、例えば2010年代、これを地で行ったのがドイツ連邦共和国のアンゲラ・メルケル政権が掲げた「インダストリー4.0」政策でした。
自動運転車両を中心にパターン認識AIの導入による高度自律システムの技術開発に一定以上の基礎を固めるべく、産業政策を充実させ、金融、財政両政策がこれを支えました。
100年前、20世紀初頭の「建艦競争」で、「ドレッドノート」のような巨大戦艦がイノベーションのシステムインテグレーションの具現物と目されたように、まさに「育てる資本主義」の典型といえるでしょう。
翻って日本はどうだったか?
同じ2010年代、「アベノミクス」なる代理店的なネーミングのもと「3本の矢」だ「新3本の矢」だ「地方創成」だといった、愚にもつかない空疎な人気取り政治に終始し、日本は「失われた20年」を「30年」に繰り延べるしか能がなかった。
はっきり申してドイツの実態とは比較にもなりません。実体としての産業政策がないのですから。
言葉だけ、選挙向け、人気取りだけ目先だけが目的のイメージ操作で、国内での支持率という見てくれを糊塗しただけ。
本質的な基幹競争力の強化に向けて、国を挙げてのイノベーションの推進には、全く取り組んでこなかった。
またさらに、そのようなイノベーション、創造的な新世代を生み出す人材育成、教育を後手の後手に回し、日本の学術全体を後退させる政策に終始してきました。
この病状を本質的に克服するには、本格的なシステム更新が必要不可欠です。
しかし、仮にいますぐにすべてを入れ替えたとしても、最低向こう10年程度の雌伏期に、十分な成果が出ることは期待しづらい。
一世代以上が成熟するのを待って、未来の再生を企図するしかない。それくらいに人材層を枯渇させる、愚かな「無政策」に終始してきたと断じねばなりません。