「年間1ミリシーベルト」無意味な除染目標

日野:まず賠償に関していうと、この原発事故の賠償は、実は「放射能の被害に対する賠償」ではなく「避難指示に対する賠償」なのです。ということは、避難指示が解除されると、賠償も止まるということです。

 汚染はずっと続くのに、「5年や6年足らずで打ち切られる賠償の仕組みをなぜ受け入れなければならないのだ」と井戸川さんは反対している。これは正論だと思います。

 次に、除染に関してですが、「年間1ミリシーベルトの放射線量」が本来の避難指示の基準です。でも、この放射線量の値を守っていたら、福島県中が避難指示区域になってしまう。あるいは、福島県ばかりではなく、近隣の県まで避難指示区域になってしまう。

 そこで、緊急時なので、この基準を「年間20ミリシーベルトの放射線量」まで引き上げるという政府の決定が2011年4月に出されました。緊急時だから基準値を引き上げた。ここまでは、まだ理解できるところです。

 この避難措置を解除する時には、最初の「年間1ミリシーベルトの放射線量」という基準に戻すのが道理ですが、2011年12月に野田政権が収束宣言を出した時に、政府は「20ミリシーベルトを下回ったところを解除」という、よく分からない方針を発表しました。

 やがて、早期解除のため、実質的に20ミリシーベルトを下回ることが除染の目標になったのです。「長期的な目標は1ミリシーベルト」となっていますが、この「長期」には期限がないので、無意味な目標になっている印象があります。

 除染とは、表面の土をはぎ取ることで、取った汚染土はフレコンバッグに詰めて、中間貯蔵施設に運ばれます。では、その中間貯蔵施設はどこなのかというと、福島第一原発のある双葉町と大熊町です。

「双葉町はそんなものを受け入れるいわれはない」「そんなものを受け入れたら帰れなくなる」と井戸川さんは訴え続けましたが、政治家、官僚、福島県知事などが井戸川さんを説得して追い詰めていきました。これが、事故が起きてから町長を辞めるまでの井戸川さんの孤独な闘いです。

──双葉町の汚染はどのような状況なのでしょうか?