大バッシングにつながった「美味しんぼ騒動」

──井戸川さんは埼玉県加須市に「東電原発事故研究所」を構え、毎月第一金曜日に「双葉町中間貯蔵施設合同対策協議会」という集まりを開いてきました。この他に毎年、総会や学習会なども行っていると書かれています。

日野:井戸川さんが双葉町の町長を辞任した後に、双葉町、大熊町、福島県が、中間貯蔵施設を自分たちのところに作ることを受け入れました。この直後の、2014年9月に、井戸川さんは「双葉町中間貯蔵施設合同対策協議会」を立ち上げました。

 私は最初、この協議会は中間貯蔵施設受け入れの反対派の集まりだと思っていました。ところが、井戸川さんの話を聞いている内に、そうではないことが分かってきました。

 この集まりは、町民がここで勉強して、それぞれが政府と闘えるようになることを目的にしているのです。「みんなで一緒に闘う」という発想ではなく、「みんな知識を付けて、それぞれが闘え」という考え方です。

 ただ、ここに集まっている方々は高齢の方が多い。井戸川さんは77歳ですが、集まっているのも同年代くらいの方々です。一番若い参加者でも60代で、なかなか熱心に勉強をするという雰囲気にはなりません。

 ところが、なぜか10年にわたってこの会は続いてきました。不思議ですね。コロナ禍の集まりは中断していたのですが、コロナ後も再び集まっている。全体では40人ほどいますが、毎回会に集まるのは実質10人ほど。私がこの集まりに参加するようになったのは5年前くらいからです。

──この集まりにはゴールはあるのですか?

日野:ないと思いますね。熱心に勉強するという気配はもはや失われています。「参加者たちのモチベーションは何なのだろう」というのが、私にとっては疑問でもあります。

さいたまスーパーアリーナから加須市の廃校に移る時の井戸川克隆氏(写真:アフロ)さいたまスーパーアリーナから加須市の廃校に移る時の井戸川克隆氏(写真:アフロ)

──福島第一原発事故の時に、独自の判断で町民を大移動させてヒーローとなった井戸川さんは、その後、ある出来事をキッカケに、日本中からバッシングを受けるようになります。何があったのでしょうか?

日野:双葉町から加須市に町民を連れてきた時は、旧約聖書でイスラエルの民を率いたモーセさながらの英雄としてメディアで語られました。ただ、町長を辞めて1年ほど経った2014年4月に「美味しんぼ騒動」というものが起きました(※)。

※美味しんぼ騒動:2014年4月28日発売の「週刊ビックコミックスピリッツ」(小学館)で、連載中のマンガ「美味しんぼ」の主人公が福島第一原子力発電所を訪れ、後に鼻血を出し、双葉町の井戸川克隆・前町長が「福島では同じ症状の人が大勢いる。言わないだけ」と語る場面が描かれた。その後、風評被害につながると批判が相次いだ。

──これは「美味しんぼ」の作者が井戸川さんと会って話をして、その時に井戸川さんが言ったことをそのままマンガに描いた。そうしたら、「デマを言うな」という批判の声が大きくなった騒動です。でも、井戸川さんはデマを言ったつもりはないという話ですよね。