(英フィナンシャル・タイムズ電子版 2024年3月7日付)
英国の財政をめぐる動きは本質的に政治的なものだ。
選挙が近づいている時は特にそうだ。だが、経済学的に理にかなうとか財政が誠実に計画されているといった装飾をまとっている必要はある。
ジェレミー・ハント財務相の場合は特にそうだ。
ハント氏はこの地位をクワジ・クワーテング氏から、すなわちリズ・トラス前首相の指揮下で英国財政の節度に対する評価を失墜させた人物から引き継いだからだ。
ハント氏の仕事は、節度ある財政という外観と、自分の党が喜ぶ(そして有権者にも喜んでもらいたいと願っている)減税策とを組み合わせることだ。
その基準に照らせば、現財務相はなかなか良くやった。
だが、それは財務相の政策あるいはその効果が英国のような状況にある国にとって賢明なものであることを意味しない。
停滞続く英国経済、財政出動に大きな圧力
その英国の状況とは、果たしてどのようなものなのか。
昨年第4四半期の国民1人当たり実質国内総生産(GDP)は、1955~2008年のトレンドが続いていた場合に達していた水準を28%下回った。
言い換えれば、以前の経済成長が続いていたら、今日の1人当たり実質GDPは39%高くなっていたわけだ。
もちろん、生活水準がなぜ伸び悩んでいるのか、そして公的支出を求める圧力が強まっているのはなぜなのかはこれで説明できる。
加えて、財務相がどれほど隠しておきたいと思っているにせよ、すでに1940年代以降で最も高い水準にある税負担の対GDP比が2022~23年度から2028~29年度にかけてさらに0.9ポイント跳ね上がると見込まれる理由も説明できる。
全体的に見れば、これは大惨事だ。
ほかの国もかなりひどいという財務相の指摘は正しい。だが、ほかの欧州主要国のGDP成長率に言及し、自分に都合の良いところだけ比較して拠り所にする財務相のやり方は目くらましだ。
財務相も重々承知しているように、英国のパフォーマンスがこの点で比較的良好なのは、特に2022年と2023年に移民が例外的に多かったことによる部分が大きい。
その意味では、1人当たりGDPの比較の方が重要だ。
それを見ると、英国の成績は最下位ではないものの、英国を下回る主要国は(金融危機で大打撃を被った国を除けば)カナダやフランスなどほんの一握りだ。